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跡部が華弥から忠告と警告を受けてから数十分後、
宿泊棟のロビーに手塚、幸村、白石、跡部。
そして愛里が揃っていた。
「華弥ちゃんが、そんな事を。」
「ああ。忠告の方はそうでもないと思うが、問題は警告の方だ。」
「馴れ合いに巻き込むな、か。」
合宿を馴れ合いと言われたのが嫌なのだろう。
手塚が険しい顔をしていた。
幸村も表情は変わらないが、明らかに機嫌を損ねていた。
「どうこう言った場合、どうなるか保証できない。なんて、物騒だね」
「物騒どうこうよりも、何でそう言うかや。
やっぱ、なんかあるんやで。
漆世学園に。」
それは確実だった。漆世学園にはなにかあると、
自分達と極端に違うなにかがあると、
それが何であるかはわからないし想像もできないが。
「……結局漆世の部長が誰かもわからないままだしね。」
そう、部長同士の集まりで漆世の誰が部長であるか知らないため、副部長である吏苑に伝えておいて欲しいと言ったはずなのだが、
レギュラーの姿すらない。
吏苑の姿さえも。
「真田が居たら、たるんどる!て言うだろうね。」
「だろうな。」
跡部がため息をついた。
誰もが初めての事に驚き、どうすればいいか迷っていた。
なにより、
「神奏と真鴈。あの二人は注意するべきだと、乾が言っていた。」
「柳もだよ。他のレギュラーも気にするべき、とは言っていたけど、
その二人は特にと言っていた。」
休憩時間の間に紅陽達が使っているコートを見に行った乾と柳、
何を見たのか、珍しく話そうとしなかった。
ただ一言、真鴈遊埋と神奏紅陽は要注意だと言う事。
遊埋はわからないが紅陽からはそれを感じとれた。
何よりあの真田を一瞬にして黙らせたのだ。
怯む事のない真田を自分が立ち去るまで黙らせていた紅陽。
自分達を見定めるかのような目で見て、口には出していないがこの程度かとその顔に出ていた遊埋。
二人だけじゃない。漆世レギュラー全員が要注意。
跡部は先程の些那知を見てそう感じた。
未だに痛む、彼に捕まれた手。
「本当に奴等は一体なんなんだ。」
「榊監督は何も言ってないのかい?」
「ああ。聞いても自分達の目で確かめろとしか言わない。」
白石がほんまか?と聞いた時、
声がした。
「……ふーん。あの人そう言ったんだ。」
「あながち間違いではないね。榊の言葉は」
突如聞こえた声に一斉に振り向けば、そこには備え付けられている長椅子に横になっている紅陽と、
壁に持たれかかり、やはりパソコンを弄っている遊埋がいた。