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校門から合宿所に、そして合宿所からテニスコートへ向かう間、
有隙華弥と名乗ったマネージャーは一言も話さなかった。
話しかけるな、と。
自分に関わるなと声に出さずとも、彼女が醸し出す雰囲気が言っていた。

だから、誰も話しかけなかった。
ただ一人を除いて。


「久しぶりじゃねぇか。華弥」


「……久しぶりです。」


跡部景吾を除いては。でも知り合いというのに華弥の態度は変わらない。
跡部に一礼をして終わり。

そんな華弥の態度に跡部は訝しげな顔をした。
それに気付いたのか、華弥は小さくため息をつき、


「無駄話をしては部長に迷惑をかけてしまいますから。」


そこで区切ると、クスリと笑い


「紅陽先輩の手を煩わせるわけにはまいりませんから。」


その時ばかりは表情が違った。
表現が難しいが最初にみた作られたかのように見えたあの笑みとは違う。
だがその顔もすぐに変わる。


「それではテニスコートにご案内いたします。」


また一礼し歩き出す。跡部とのやり取りに呆気にとられていた者達は歩き出した華弥に慌ててついて行く。
跡部も不機嫌な顔をしながらもついて行く。

その不機嫌さを感じ取ったのか彼の仲間は触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに近寄らない。
でもそんな中、愛里が跡部に近寄った。


「景吾くん。あの子、華弥ちゃんだよね?」


「……ああ。」


間があったが跡部は先頭を歩く華弥の背を見ながら頷いた。


「なんか、雰囲気変わっちゃったね。」


「昔はああじゃなかったんだがな。」


愛里は何度かパーティーで華弥と彼女の兄を見ていた。
二人とも穏やかな雰囲気を醸し出していて話しやすいイメージを持っていたが、
今の華弥からはそれを感じない。

何があったのか詮索する気はないがあまりにも変わりすぎていた。


「それに、一つ気になる事を親から言われてな。」


「?」


「漆世の生徒、特に持つ者に関わるなと言われた。」


「景吾くんも?あたしも同じ事をお父さんから言われたの。」


そう話している内に聞きなれたボールの音が耳に入る。
テニスコートについた。


「おお、設備いいじゃねぇか」


「ほんまやな」


部員達がラリーをしているのを見ながらそれぞれ
設備の良さにはしゃいでいた。

その声が耳に入ったのか練習していた部員達がちらりと目を向けた。


「あいつ等……」


「合宿に参加する他校の奴等だろ?」


「なんか、可哀想だよな。あいつ等」


「先輩達との合宿なんてよ。試合する事になったら……」


「どれだけの人数が無事でいられるんだろうな。」


部員達の会話など耳には入っていない。
でも跡部と愛里はそれを見ながら話している。


「でも、なんで関わるなって言うんだろう。」


愛里がそう呟いた時、それに答えるかのように背後から声がかかる


「ふーん。合宿に来たのに関わるな、ね。
まぁ強ち間違いではないがな。」


笑い声と共にそれは聞こえた。

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