1



合宿の当日。愛里はバスの中でもう一度合宿の要項を見ていた。
これから向かう漆世学園。
そこが気になり父親に知っているかを聞いた。
そしたら父親から意外な答えが返ってきた。


そう、合宿といえどあの学園の生徒とあまりかかわるなと言われたのだ。
なぜと聞いても父親はそれ以上答えてくれなかったし母親も聞いちゃだめというばかり。
訳がわからなかった。
同じ中学生に関わるなというのが。
なぜ父親が顔を青くしたのかが。


「どうしたんすか?愛里先輩。」


頭上から声をかけられ顔をあげれば前の席から桃城が顔を覗かせていた。
なんでもないよと言えばそうっすかとニッと笑って顔を引っ込めた。

愛里はふぅと息をつき、忘れようと思った。
両親のあの挙動不審な様子を。

関わるなと言われた事を。
忘れなければと思った。


「それより乾〜。漆世の事はわかったの〜?」


菊丸が通路に体を出し、反対側に座る乾にそう聞いた。
やはり気になるのだろう、漆世が。
それを見越していたのか乾はノートをめくった。


「漆世学園。約80年前に創立された私学共学校。
比較的裕福な家庭の子供が多く、また場所が都心から離れているため寮生が多い。
地理の関係から他校と関わりも薄い。」


「……それだけ、かにゃ?」


菊丸が驚きながらそう聞けば乾は頷いた。


「これ以上の事は全くわからなかった。
どんなに調べても内部の事はなにも出てこなかった。」


あの乾が調べきれなかった。
それだけで、誰もが驚き漆世が一体なんなのかさらに興味を持つ。

ざわめく中、乾が続けた。


「ただ……」


「ただ?」


「ネット上の情報だから信憑性はあまりないが、
漆世学園には持つ者と呼ばれる生徒達がいるらしい。」


「持つ、者ってなんすか」


このなかで興味などもっていなさそうだったリョーマが呟く。


「わからない。だが、その持つ者は漆世において異質で異端で、
最も畏怖すべき存在である、としか書かれていなかった。」


異質で異端で、畏怖すべき存在。
自分達と同じ中学生であるのになぜ、そこまで言われる生徒がいるのだろうか。


「でも、それが今回の合宿とどう関係するんだい?」


「なんでもその持つ者がテニス部にいるらしくてな。
レギュラーであるかどうかはわからないが、関係することになるだろう。」


パタンとノートを閉じ眼鏡をあげた。


「そしてこうも書いてあった。

奴等に関わるな、関われば自分が終わる、と」


乾が言った言葉に誰も話さなくなった。
ネット上とはいえ、そんな物騒な事を言われては話す気にはなれないだろう。


そしてバスのスピードがゆっくりになり、
バスは止まった。
窓から外を見れば、校門の横にかけられるプレートが目に入る。

そこには漆世学園と掘られていた。




 next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -