言の葉 | ナノ




周りの景色がぐるぐると回る。頭痛もする。
頭痛はだんだん酷くなっていき、その間にも目の前の景色は廻る。回って、まわって――…


「……、千鶴ちゃんっ!」


総司の叫び声を聞き、千鶴は意識を飛ばした。



言の葉



――――………
―――……
――……


ゆっくりと重い瞼を開くと、視界に映る景色よりも先に熱い右手に意識が奪われた。
何故か右手の体温だけが高いらしく、不思議に思い千鶴は気だるげに首を動かし右手に視線をやる。
――と、


「目、覚めた?」


――小さな声が聞こえた。
姿を確認せずとも、声の主が総司だと千鶴は確信を抱く。

「……沖田さ、」と、白い喉からか細い声を発するが、総司の手と己の右手が握り合っている光景を目にし、瞳を見開いては瞬きを繰り返した。
千鶴の反応に気づいた総司は繋いだ手に視線を向け、次に千鶴と目を合わせた時口を開いた。


「何か、千鶴ちゃんが僕に向かって手を伸ばしてきたから握ったんだけど、駄目だった?」

「え?」

「寝ぼけてたんだと思うけど、嫌なら離すよ」

「あ、」


力を緩め離れようとする総司の手を千鶴は咄嗟に力を込め離さなかった。
総司は目を開き、驚きの表情を見せる。
千鶴はといえば、咄嗟にとった自分の行動に頬を赤らめ「あ、えっ、その……」と支離滅裂な言葉を漏らす。
途端、総司の口元が弧を描き、総司もまた千鶴の手を握る手に力を込めた。
ぴくりと肩が跳ねた千鶴に総司は言う。


「千鶴ちゃんが嫌じゃないみたいだから、もう少しこのままでいてあげる」


無意識なのだろうが、千鶴の口元にも安心したようなかすかな笑みが浮かんだのを総司はちらりと視界の端に捉えた。

千鶴にはああ言ったが、実は総司も千鶴と手を握ったままでいたかったのだが、それは千鶴本人には秘密である。


「あの、沖田さん」

「なに?」

「わたしは、どうしてここに?」

「ああ、そうだったね。君が起きたら聞こうと思ってたんだ。ねえ、気分はどう?」

「……?何ともありません」

「頭が痛いとかもない?」

「はい」


そう言って千鶴はこくりと小さく頷く。
総司は千鶴の額に手を当て熱を計るが、すぐに「熱はないみたいだね」と言って手を離した。

全く状況が理解できていない千鶴に総司は淡々と説明を始める。

結論を言うと、朝餉の支度をしている途中に千鶴が倒れたのだと言う。
勝手場に顔を出した時から千鶴の頬は僅かに赤かったらしく、総司や千鶴と同じく朝餉の当番だった斎藤が大丈夫かと訪ねたが、千鶴は大丈夫だと笑い支度を始めたらしい。
だが、支度をしている手も何だかいつもより遅く手際も悪い。
それを見た総司が千鶴に部屋で休むよう伝えようとした刹那、突然千鶴が倒れたのだと言う。
それからは、朝餉の支度を斎藤に任せ、総司は千鶴を抱えて千鶴の部屋に連れて来たらしい。


「すみません。ご迷惑をおかけしました。部屋まで運んでいただき、ありがとうございます」


話を聞き終えた千鶴が上半身を起こし総司に向かって頭を下げる。
「相変わらずだね」と総司は微笑を漏らす。
言葉の意味を理解できず首を傾げる千鶴に総司は、何でもないよ、と笑ってみせた。


「まだもう少し寝たら?今は辛くなくても、明日またぶり返すかもしれないからね」

「い、いえ!これ以上休むわけにはいきません。お洗濯やお庭の掃除をしなくては!」

「洗濯なら誰かが代わりにやってくれるよ。庭掃除なら一日くらいやらなくたって平気だよ」

「で、でも……」

「しつこいなあ。僕、しつこい子は嫌いなんだけど」


そう言うと、千鶴は言葉に詰まった。
嫌われるのは嫌だ、と思ってこれ以上の抵抗は止め、大人しく寝転がる。
と、「いい子」と言って総司の大きな手が千鶴の髪に触れ、優しくそこを撫でた。


「……気持ちいいです」


素直にそう述べると、総司はくすりと微笑み、握った手に力を込めた。
その後もぽつり、ぽつり、と他愛ない話を繰り返す。
いつの間にか、総司の手は千鶴の髪から離れていたが手は握り合ったままだ。


「千鶴ちゃん」

「はい」

「――――…」

「……、え?」


総司の口から紡がれた言葉に千鶴は目を見開き総司と視線を絡ませる。


「あの、沖田さん!」

「なに?」

「さっきの言葉は……」

「あれ、僕何か言ったっけ?」

「、……」


意地の悪い笑みを浮かべたままとぼける総司に、これ以上問いただしても千鶴の欲しい答えは得られないと経験から察した千鶴は黙るしかなく。
ただ、「不意打ちは狡いです、沖田さん」と責めるような口調と言葉を彼にぶつけるのが彼女の精一杯だった。



(2013.08.27)
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