12月31日 | ナノ




――12月31日。
その日はわたしも総司さんも、二人ともお仕事はお休み。
だから、大晦日は二人揃って普段できない朝寝坊をしようと総司さんが言ってきた。
大晦日くらい二人でゆっくり過ごそうと総司さんは笑った。



12月31日



――午前7時。
いつもより一時間遅い起床。
毎年、もっと寝ていいよ。と総司さんに言われるけど、自然と起きてしまうのだから仕方ない。
横ですやすやと気持ちよさそうに眠る総司さんを起こさないように気をつけながら、そっとベッドから抜け出す。
ひやっとした冬の冷たい空気が体を冷やしていく。
寒さを和らげようと、ベッドに畳んで置いてあったカーディガンを羽織って寝室を出る。

洗面所で顔を洗ったら台所へ向かって朝食の準備に取り掛かる。
大晦日だからといって、何か特別な朝食を作る訳でもなく、いつも通りの朝食。
ご飯を炊いて、その間におかずを作って。
ちょうど朝食のメニューがすべて出来上がった頃に総司さんは起き出してくる。
総司さんの癖の強い髪は今日もあっちこっちに跳ねて元気がいい。
その割に総司さんは寝起きでまだ眠たそう。


「おはようございます。総司さん」

「ん。おはよう、千鶴」

「顔を洗ってきてください。朝ごはんできましたよ」

「……ん」


ふらりふらりと、やや危なっかしい足取りで総司さんは洗面所へ。


「(顔を洗ったら多少スッキリして戻ってくるかも)」


おかずを並べたらお茶を淹れて、お揃いの箸置きとお箸をセットして。
その時ちょうど顔を洗って戻ってきた総司さん。
やっぱり少しスッキリしたみたいで足取りはしっかりしている。


「ご飯 いただきましょうか」

「うん」


二人で席について、両手を合わせて。
「いただきます」と、声を揃えた。



***



朝食を食べた後、ちょっとした話し合いを 大晦日はもちろん何かの記念日には必ずしている。
その話題はいつも夕食のメニュー。
記念日の夕食は少しだけ特別なメニューにしようと決めていた。
けれど、総司さんのリクエストはいつも同じ。


――いつもの夕食のメニューでいいよ。


一番困るリクエスト。
いつも頭を悩ましているけれど、総司さんのリクエストにも応えたいし、せっかくの記念日だから特別なメニューを作りたいわたしの意地。
だから、いつも一品だけ特別なメニューを作って 他は普段通りの夕食メニューにしている。

昼食前に大晦日でも営業している近くのスーパーに、総司さんと夕食の材料を買いに行って。
いつまで経っても手を繋ぐことに慣れないわたし。
いつも総司さんと手を繋いでは頬を赤く染めるから、いつも総司さんにからかわれる。
わたしが少し怒った素振りを見せても効果なし。
「可愛い」なんて言って更にからかわれる始末。

スーパーに着いても離されることのない手。
片手は総司さんの手と絡めて。もう片方でお野菜を手に取る。
選んだお野菜は総司さんが持ってくれてる買い物カゴの中へ。

今日の夕食は巻き寿司とお吸い物。
年越しそばも頂くからあまり多くは作れない。
わたしも総司さんもよく食べる方じゃないから、作りすぎて残してしまうのは勿体無い。
お酢や海苔、巻き寿司の具材を買い物カゴに入れて、昼食用のお餅もカゴに入れてレジへ。

お会計を済ませたら年越しそばを買いにおそば屋さんへ。
お店の前に小さな屋台が置かれていて、そこでお持ち帰り用のおそばが販売されている。
一緒に販売されている天ぷらが美味しそうで買おうか迷っていたら、総司さんが天ぷらも一緒に店員さんに渡してわたしはちょっとアタフタしてしまった。


「そ、総司さん、天ぷらは……」

「美味しそうだったから。半分こしようね」


にっこりと優しく口元を緩める総司さん。
海老の天ぷらが二匹と他にもいろいろなお野菜の天ぷらが入ったそれは、丁寧にビニール袋に入れられて。
「お待たせしました」と店員さんの言葉と一緒に渡された。
それを受け取ったのはわたし。
総司さんはスーパーの袋を持ってくれてるから、おそば屋さんの袋はわたしが持って。

おそばを買ったら寄り道せず真っ直ぐ帰宅。
急いで昼食のおしるこ作りに取り掛かる。
買ってきたお餅を焼いて、小豆をお鍋で煮て。
おしるこ作りに専念するわたしの後ろでは、総司さんが買ったお野菜などを冷蔵庫に入れてくれている。

「もうすぐ出来ますから」と言うと、「楽しみだなあ」と少し上機嫌になる総司さん。
小豆とお餅を器に盛って、机の上に置く。
すると、ふわりと香ったいい匂い。
待ちきれないとばかりにわたしをじっと見てくる総司さんに苦笑して、わたしも腰を下ろす。
二人で手を合わせて。
「いただきます」と声を揃えた。



***



「今年もあと少しだね」

「そうですね。こうして振り返ってみると、一年があっという間に感じます」


一年を振り返りながら、巻き寿司を食べるわたしと総司さん。
年越しそばも食べるからとちょこちょこと少しずつ巻き寿司を食べるわたしに対して、総司さんはすぐに完食。
慌てて巻き寿司を口に入れるわたしに総司さんは優しい笑みを向けてくれる。


「もっとゆっくり食べていいよ。僕もお腹を落ち着かせたいから」


優しいその言葉に甘えてちょこちょこと巻き寿司を口に入れるわたし。
その間、総司さんはお昼におそば屋さんで買ったおそばを茹でていて。
ようやく食べ終えた時に、タイミングよく総司さんがおそばを運んできてくれた。
紅白を見ながら年越しそばを食べる。
テレビから流れる曲を聴きながらズルズルとおそばを啜る。

年越しそばを食べ終えたら新年はすぐそこ。
近くのお寺から除夜の鐘が聞こえてくる前にわたしと総司さんは正座して向き合う。


「今年も無事に終わるね」

「はい。病気も事故もなく、ただ穏やかな一年でした」

「明日だね。千鶴と出会った日」

「はい。明日もお祝いしましょうね」

「千鶴。今年もお疲れ様」

「総司さん。今年もお世話になりました」


ぺこりと頭を下げると、総司さんも少し頭を下げる。
除夜の鐘が近くで鳴って、耳を刺激する。
頭を上げて、視線を交えて。


「今年もよろしくお願いします」


どちらともなく 微笑いながら声音を重ねた。



(2013.01.03)


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