秋雨 | ナノ




雨の日はあまり好きじゃない。



秋雨



ざあざあ、と雨は耳障りな音をたてながら降り続く。
縁側に立ち際限なく降り続く雨を見つめて、その音に耳を傾ける。
綺麗なお庭にできた無数の水溜まり。
あれでは明日はお庭で日向ぼっこはできないだろう。
いつもお庭で日向ぼっこしているとはいえ、ゆっくりと過ごせるその時間がわたしは好き。
残念な気持ちを吐き出すようにため息をついた。

明日も雨だろうか。
雨はあまり好きじゃない。
だって――…


「……ずる、」

「……、」


微かに聞こえた声にわたしは静かに振り返った。
寝起きのせいか少し赤い目で彼はわたしを見ている。


「おはようございます。総司さん」


そう言うと、総司さんは返事の代わりに布団の中から腕を出す。
わたしは部屋の中に入ってそっと襖を閉めて総司さんのもとへ向かう。
総司さんのいる布団の中に足を入れて体を滑りこませて
頭を上げると総司さんの腕が入ってきて腕枕の体勢になった。
もう片方の腕は背中に回されて優しく抱き寄せられる。
少しはだけた総司さんの胸板にすがるように擦り寄ると、ふわりと総司さんの体臭がした。


「……千鶴、雨の匂いがする」

「……さっきまで縁側にいましたから。外は雨です」

「へえ」


雨か。と独白のようなそれを零した総司さんは、ぎゅっとわたしの背中に回る腕に力を込めた。
少しびっくりして総司さんに視線を向けると、総司さんの目が細くなりその口元が緩んだ。


「僕、雨は嫌いなんだ」


突然何を言い出すのかな。なんて思った。
ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、さらりと髪を撫でられる。
髪に指先を絡めて遊ぶ総司さんはなんだか楽しそうで。
雨は嫌い。確かに総司さんはそう言った。その割に表情は生き生きとしている。
総司さんの意図が分からず首を傾げると、総司さんは静かに口を開いた。


「雨の音ってうるさいよね」

「……?」

「雨の音が邪魔して、千鶴の声が聞こえづらい時があるんだ」

「……それは、」


わたしも同じです。静かにそう言った。
雨はあまり好きじゃない。
だって、愛しい貴方の声が聞こえないから。


「うん。だから――…」

「……っ」

「もっと近くにおいで。千鶴」


抱きしめる力が強まり、胸板に顔を押し付けられる。
強くなった総司さんの匂い。
さっきより近くから聞こえる総司さんの声。
とくん とくん……。と、穏やかに静かに動く心臓の音。それが妙に心地好い。
気持ちよくて、安心する。


「今日はずっとくっついてよっか」

「……ずっとは駄目です。お料理を作っている時は危ないです」

「じゃあそれ以外の時は」

「……ふふっ」


まるで甘えん坊の大きな子どもみたい。
総司さんの言葉に承諾の返事をすると、彼は嬉しそうに笑ってみせた。


「千鶴とずっとくっついていられるなら、雨も悪くないかな」

「……わたしも、雨が好きになれるかもしれません」


声が聞こえないなら、聞こえるくらい近くにいればいいのだから。


「……、」


ふわりと総司さんの匂いと一緒に香った雨の匂い。
その匂いにわたしは小さな笑みをこぼした。



(2012.11.28)

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