四季 | ナノ







千景が可愛い

いまだに傷ついた顔を思いだしてキュンとしている千鶴はおもむろに席を立った





「お兄さん?」



どこ行くの?と首を傾げた白椿を無視して千鶴は部屋を出て行く
どうやら部屋を出るのに説明がいるほどの理由はないらしい



適当に閉められた襖
一瞬シーンとなると千景が白椿の左肩に顎をのせる
超至近距離



「………」
「………」



普段なら何となく話し出す白椿だが黙ったままである



千景はというと白椿に引っ付いたまま幸せそうな顔をしている
そして白椿の手を握っている両手の力がだんだんと抜けてくる





「なんか…フワフワしてくる」



そう言った千景は白椿の髪に唇を付ける
彼の話す息と体温が妙に伝わってくる



「お酒弱いの?」
「いや、そうでもないよ。普段はもっと飲むけど白椿さんとお話ししたいし。うざいの消えたし」
「うざいのって…。あんたもたいがいよ?」
「ううぅ…。白椿さん超意地悪」



と言いながらも千景はどこか嬉しそう






「俺の妖術、なんだと思う?」
「…全然見当のもつかないけど。それに気安く教えていいの?」
「白椿さんだからいいのー」
「そんな簡単に…。何か条件を出した方がいいんじゃないの?」
「じゃあ、俺の事千景って呼んでくれたら教えてあげる。これでいい?」



そう言うと千景は白椿から離れ、机の上にあったとっくりを持ち、そのまま全部飲み干した
かなり豪快

それでも彼は顔色一つ変わらない





「千景」





白椿が千景をそう呼ぶと、彼はニヤリと笑い白椿を頭から抱き込んだ



「!?」



思わず白椿は目を閉じる


それからすぐに白椿の視界が明るくなる
どうやら千景が離れたようだ






「はーつさん」



白椿は驚愕した
自分の目の前に自分がいる



「千景?」
「そうだよー」



声も全く自分と同じ



「すごいな!誰でもできるの?」
「できるよ」



千景はそう言うとまた白椿を頭から抱き込む



すると次に目の前に現れたのは漆原



「ほおー!」



白椿は目をキラキラさせている



「どう?マジですごいでしょ。でもこれ超体力使うからそう何回もできないんだけどね」
「声まで漆原だとなんか違和感があるな…」



それもそのはず
白椿の目の前の漆原はほんのり微笑み明るい口調で話している
いつもの漆原では考えられない

なんか気持ち悪い





「白椿さんが一番好きな人になってあげようか?」





千景…いや、漆原に化けた千景は千鶴の方のとっくりも飲み干してしまう



「残念。好きな人はいないの」



白椿はそう言うと漆原に化けた千景の手を握る



「えー。つまんないなー」



漆原に化けた千景はそう言うといきなり真顔になる
その様子を見ると本当に漆原はその場にいるようだ

白椿は思わず完璧に構成された千景の漆原に見惚れる





「白椿様」



漆原に化けた千景は白椿の手を握る
雰囲気と話し方まで似ているため、白椿は少し戸惑う



「…っ」



戸惑っている隙に漆原に化けた千景は白椿を抱きしめた



一度漆原に抱きしめられたあの感覚と思わず比べるがやはりどこか違う

でも、なんだか落ち着かない
何といっても漆原の香りがするのだ
これには白椿は感心したのと共にちょっとドキッとした



「…やっぱりちょっと違うわね」
「えっ!それどういうこと!?抱きしめられたことあるの!?」
「もうそろそろ千景に戻らないとお兄さん帰ってくるけど?」
「ちょっと話そらさないでよ!めっちゃ気になるんだけど!」
「内緒」
「なんだーそれー。いつか聞き出してやるからー」



そう言うと千景は白椿のおでこにチュッとキスをする



「おおぅ…」



白椿が思わず目をつむるともう目の前には千景がいて
それとほぼ同時に千鶴が帰ってきた


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