四季 | ナノ







小鳥遊の香り

「で、ここで待ち伏せしていたと」
「ちょっと待ってよ!待ち伏せだなんて…」



風呂上がりの白椿は髪を拭きながら出てきたところ、御剣藩の小鳥遊に捕まった



「女湯の前で人待ちー?」
「なかなか恥ずかしかったんだから、ちょっとは褒めてよ」



白椿は意味深そうにニヤつくと小鳥遊は恥ずかしそうにムスッとする



「お呼び出しでもよかったのに。わざわざ来てくれたんだ」
「んんんもう!そういうこと!」



プンスカしている小鳥遊は腕を組む
赤茶色の前髪がふわっと揺れる





「あぁそう。で、何かご用?」
「あぁ!そうそう!もうご飯とか食べられましたか?」



急に敬語の小鳥遊



「まだだけど?」
「良かった!狛兎の鏡様、この後俺と夕食いかがでしょう」



純粋な笑みを浮かべる小鳥遊に白椿は少し楽しそう



「ご一緒させていただきます」
「よし!よかった、誰か他の藩主様と行くのかと…」
「今のところ別になにもないわ。ところで…」



白椿はそこまで言うとあたりに人がいないことを確認する様子を見せ、小鳥遊に近づく
その距離に小鳥遊が少し動揺すると





「勿論、食べた後の飲みにも付き合ってくれるわよね?介抱込みで」



白椿の言葉に赤面の小鳥遊は「あ…う……」とかなんとかいって動揺している

それを見て面白く思ったのか白椿は爆笑し始める



「じょ、冗談にも言っていいことと悪いことがありますよ!女の人がそんな事言っちゃいけません!」
「冗談じゃないわよ?当然の事よね、執事さん」



小鳥遊は『執事さん』というフレーズでハッとした様子になりあたりを見渡すと





いた

廊下の向こうの壁から左半身を覗かせる小鳥遊の執事、青柳がこちらを見ている





「篝くん!!!」
「………」



名前を呼ばれた青柳だが鋭い目を細くしてこちらを睨み、一切の動きをしない
完全に監視している




「どうも」
「…どうも」



白椿が声をかけると律儀なのか壁から離れしっかりと頭を下げる青柳





「いつからいたの!」
「小鳥遊様がメイドさんに『どうされたんですか?』って聞かれてた辺から」
「序盤じゃないか!!」



羞恥心に打ちのめされそうになっている小鳥遊をよそに、白椿は青柳をこちらに呼ぶ
白椿は間近に来て小鳥遊の横に立った青柳を見て、キョトンとする

白椿よりは背は大きいが、小鳥遊と比べたらかなり青柳の背が小さい



「小柄なのね」
「……」



青柳は白椿にそう言われると、かぶっていた制帽を深くかぶり顔を隠してしまう



「鏡様それは…」



小鳥遊は白椿に口の前でバッテンを作って見せる
どうやら『体格に関すること』は青柳の前では禁句らしい
お口ミッフィーや





「屋敷の中で夕食はとられますか?」





音もなく不意に現れた漆原は白椿の背後の廊下に立っている
かなりびっくりした様子の小鳥遊



「あら、ありがとう。で…どうがいい?」



漆原に近づいて行った白椿は彼の手から新しいタオルを受け取り、御剣藩の二人を振り返る



「えぇっ!どこから!?いつの間に!?」
「その辺です」



適当に返事をした漆原は白椿の頭にタオルを被せて髪を拭き始める
もうなんかお母さんみたい



「気づかなかったのですか?」
「篝くん逆に気付いてたの!?」
「…気付くと言うか、鏡様の執事殿はどうやら妖術でここまでこられたようです」
「妖術!?」



小鳥遊は唖然とした様子でいるが、漆原はなんてことのない様子で白椿の髪を拭いている



「で、夕食は?」



話を戻した青柳



「あぁ、そうだった…。どうしよう…」
「決めていたのではないのですか?」
「この辺綺麗なところ多いんだって!決められなくてさ」
「お仕事の話であれば屋敷内でもいいのでは」
「そ、そうもいかないだろう!だって…び、美人だし…」
「………お仕事ですよ」



小鳥遊がそーっと白椿の方を見ると彼女は微笑んでこちらを見ている



「……警備の事もありますし、屋敷内の部屋を一部屋借りての夕食はいかがでしょう」
「それが一番いいでしょう。遠くに行かれては心配ですからね」



青柳の提案にのった漆原は白椿の顔を覗く



「いいわよ。どこでも」
「わかりました…ありがとう篝くん」



小鳥遊は青柳にいいところを持っていかれたのだった


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