そうして白椿と丁花が話している頃 離された芙蓉はふわっと白い着物をなびかせて漆原の前に立つ 「はううぅ…」 芙蓉は背中を小さく丸めて首の後ろを撫でている 「楽しそうですね」 「うーん…まぁまぁかなー」 芙蓉はそういうとへにゃっと笑い漆原を見上げる 白い着物が乱れているにも関わらす芙蓉は平気のようだ 「他の部屋にも行ったんですか?」 「うーん。一応全員の所回ってきたの。ここが最後」 「全員の所…」 漆原はげんなりした表情をしている あぁ、他の藩主の執事も大変なんだな…と思い 白椿と話している丁花に少し同情した 「そうだよー。みーんな」 「稲狐の所も?」 「うん。ぜーんぶ。みんな、優しかったよ」 そう言った芙蓉は漆原の周りを回り始める 自由すぎてついて行くのに大変だ 「何か?」 「うーん…漆原さんなんか隠してる?」 「何を…ですか?」 「それは僕にも、わからない…。でも、隠してる……」 芙蓉はそういうと漆原の正面で立ち止まり、漆原の胸元を見つめる 「?」 漆原は自分の胸元を見るがいつもの黒い軍服に特に変わった様子はない 「……ここ」 芙蓉は細く長い人差し指を漆原の心臓部分に当てる そこでようやく漆原は気づいた 芙蓉が人差し指を当てた下には胸ポケットがある きっと芙蓉はそのポケットに入っているもののことを言っているのだろう 「これですか?」 漆原が軍服の胸ポケットから取り出したのは 「…飴ちゃん?」 漆原が差し出してきた手には5つほどの飴がのっている 「はい。飴は結構持ち歩いていますよ」 「凄く意外!毒とか持ち歩いてる、のかと思った!!」 芙蓉はそういうと飴の中で一番きれいな黄色の飴を突っつく 「私のイメージはそんなに悪いですか?」 「悪いと言うか…本当のこと言ってそうで実は嘘、ついてそう」 へらへらしている芙蓉だが何気に黒いことを言っている 「あながち間違ってはいませんが…いりますか?」 「やったぁ…嬉しい。僕飴ちゃん好きー」 「それはよかったです。それにしても真っ白ですね」 漆原はそういうと一粒の飴を大事そうに両手で持っている芙蓉を見る 彼は本当に真っ白 肌も髪も目も真っ白 ついでに言うと爪まで真っ白 「エへへ…いつも丁花が、用意してくれるんだ。僕に似合う、って」 漆原は芙蓉のその返事に意外だと思った (本人が白が好きだと言うわけではないのか?) 何気なく聞いてみたことだが、詮索はやめよう 「確かによくお似合いで」 「そうなのかなぁ…僕よく汚しちゃうから」 「あぁ、確かに大変そうですね」 「そう。だから僕はもっと暗い色の方が、好きなの」 芙蓉はそういうとへらへらっと笑って白椿の方に向かう 「どうしたの?」 「お腹すいたからお部屋に戻る、の。お邪魔しました狛兎さん。また、今度」 芙蓉はそういうと思いっきり白椿にむぎゅーっと抱き着いた 言っておくが芙蓉は白椿よりかなり背が高いです 「おまっ…!!!!!!!」 そんな様子を目の当たりにした丁花は顔を真っ赤にしている 自分が抱き着いたわけではないのに 「こらこら」 驚愕のあまりに固まってしまっている丁花の代わりに白椿から芙蓉を引き離した漆原 「ふあぁ…お姉さんいい匂い」 引きはがされたにも関わらず芙蓉は幸せそうな表情をしている 「何してんだよ!帰るぞ!」 丁花は赤面したまま芙蓉の腕を掴み白椿と漆原にちょこっと頭を下げ部屋の出口に向かう 「またねー」 芙蓉、白椿と漆原に手を振りながら強制退場 「なに抱き着かれてるんですか」 「すまんな」 白椿はそう言いながら笑っている 「……ちゃんと置いてきたのかよ」 「んー?…本当は凄く、置きたくなかったけど……」 丁花の隣でしょんぼりしている芙蓉は手のひらに少し大き目のビー玉をのせる そのビー玉には白椿と漆原の足元が写っていた [演目] [しおりを挟む] |