「コーヒー?紅茶?緑茶?」 「お気使いなく」 部屋のソファーの前に立つ江東は白椿に微笑む 彼は白椿の様子をじーっと見つめながら返事をする 「そう…どうぞ座って?」 白椿は手に水の入ったコップを持ち、江東の方に歩いてくる 「ありがとうございます」 「いえいえ」 対面して座った二人 「…お隣、いいですか?」 江東は白椿の正面にいながらそう問う 「いいけど」 「では失礼いたします」 江東はそういうと白椿の隣に腰を下ろす ふわっとなびく江東のセミロングの髪の間から赤いピアスがあるのを発見した白椿 「いやはや驚きました。本当にお綺麗な方で」 「あたしが?」 「はい」 江東はそういうと白椿を観察し始める ほわほわした雰囲気の江東は藩主たちの中では一番年上であろうか かなり大人っぽく落ち着いている すぐ近く、隣に座った江東であるが何かしてこようとかそういう雰囲気は全くない 白椿は江東と自分の分の水を注ぎながら問う 「それで、何か話が合ってここに来たんでしょう?」 「そうでございました。ぜひわが藩と友好関係をと思いまして」 「それだけ?」 「そうですよ?」 「…ふぅん。いいわよ」 「本当ですか?」 江東はかなり意外そうな表情をしている 「えぇ。断る理由はないわ」 「ありがたきお言葉でございます」 江東は嬉しそうに姿勢を正す 「他の藩主の所にも回って聞いてるの?」 「いえ。鏡様の藩だけでございます」 「…狛兎だけ?」 白椿は小首をかしげる 「えぇ。何か問題でも?」 「他の藩はいいのか?特に鐘楼とか武器に強い藩と友好関係を結んだ方が…」 「別にいいのです」 『鐘楼』と白椿が口にした瞬間江東は白椿の髪に手を伸ばす 彼の伸ばした左手がするすると白椿の髪をさかのぼってくる 白椿はいきなりそんなことをし始めた江東を真っすぐに見つめる (藩主同士結婚しようとか言うのだろうか…) 白椿はそんなことを考える 「よく頑張りましたね。女性であるのにも関わらず堂々と会話されるあなたはとても素晴らしいと思います」 江東はポンポンと白椿の頭を撫でている 「あたしは子供じゃないぞ」 「勿論子供ではないですが、とても可愛らしい……」 白椿の頭を撫で続ける江東は楽しそう 手つきは別に下品ではない 「……藤堂殿はかなり気難しそうな方でしたね」 「うむ、まぁそうだな。もっと仲良くならねば」 江東は白椿の返事を聞くと微笑む糸目から鋭く青い瞳をのぞかせ、白椿から手を離す そして水の入ったコップを両手で持った 「そうですね。もしかしたら本当はとても優しい方なのかもしれませんね。ですが、本性はわかりません…」 白椿は江東のその発言に少し違和感を覚える 何が引っかかるのかと言われるとわからないが何となく気にかかる 「なんだ、仲がいいのか?」 「まさか!仲いいわけないじゃないですか」 江東はそういうと少し大きく笑う 何となくカラ笑い 「…ほう」 「鏡様は他の藩の方と仲がよろしいんですか?」 「うーん…特にないかしら。でも荒峰の朝比奈と藤堂とは少し話したかしら」 「そうでございますか。どんどんと藩主同士の交流も考えなくてはいけませんね」 優しく声を発する江東の雰囲気は何となく居心地が良く白椿は嫌いではないと思った そして水を飲む江東 「なかなか忙しくなりそうね。お互い頑張りましょ」 白椿はそういうと江東に握手の手をさし伸ばす 「えぇ、これからよろしくお願いいたしますね」 「…あと、鏡じゃなくて白椿でいいわよ」 白椿と握手した江東は小さく頷き、そのまま白椿の手を握ったまま立ち上がる そしてお見送りをする白椿の後ろで、江東の口を付けたコップからは湯気が立ち上っていた [演目] [しおりを挟む] |