四季 | ナノ







プロローグ「クチナシ」






丸い机から白いストローがコロンと落ち、カーペットに転がる





「あぁーっ…ファック!!…ッ…最高!!!!」



鼻をおさえた黒いスーツでくしゃくしゃな金髪の男がソファーに仰向けに倒れ込む
彼の青い瞳がチラチラと動き、定まる様子はない



「おい。…おい聞いてんのかランス。こないだの客はどうだったよ」



ランスと呼ばれた金髪の男の向かいに座りタバコを吸っている水色の髪をした男が聞く
彼の前髪はぴょこんと縛られており、顔には複数のピアスが通っている




机の上に置かれた白い粉と鏡とカミソリから察するに男二人はどうやら危険な職業の奴らしい



「Oh…Damn it…」と声を漏らしながら体を起こしたランスは垂れてきた鼻血をぬぐう
しかしなかなか止まらない鼻血は彼のシャツを染めていく



「アイツ頭とんでっからめんどくせぇことになってなきゃいいがよ。マルコに叱られんのは俺なんだからよ…」
「俺らの周りに頭のとんでないヤツなんている?大丈夫だよ、面倒に引っかかったら消せばいいさ。だろ?…oh my got……」



ちょっと鼻をつままないでいたら鼻血がたらたらと垂れ始めるランス



「消せばいいって…後始末にも金がかかるようになってきてんだよバカ」
「金は消した奴からぶんどるんだよ。そうすれば問題ない」
「命だけじゃなくて金も全部かっさらってくのかよ。恐いねぇ」



水色の髪の男はそう言うとタバコを灰皿に押し付ける



「あれだよ、死人に口なしって言うでしょ」
「それはそうだけどよ。俺達妖怪だぜ?」
「まったく面倒くさいところに気付くんだな。でもな?よく聞けよ?」



ランスはそう言うと、止まらない鼻血にイラついたのか
胸ポケットから煙草を一本取り出して、鼻血の止まらない方の鼻の穴に入れた

とても若く可愛い顔をしているのにやっていることは頭おかしい



「死人に“口なし”っていうその“クチナシ”っていう花はな?日本でも外国でも花言葉的には“幸せ”とか“嬉しい”とかそういう意味らしいんだよ。だから…」
「ちょっちょっ…死人に“口なし”のその“口なし”は“口なし”という言葉であって別に花の“クチナシ”を言ってるわけじゃねぇぞ」



呆れた表情の水色の髪の男はランスの顔を覗き込む



「そう。知ってる」



彼はそう言うとニヘッと笑う

ランスの顔は左右で微妙に表情が異なっておりちょっと不気味



「…意味わかんねぇ」
「いつもの事でしょ」



そんなランスに呆れた水色の髪の男は立ち上がりスーツを正す



「ヴィンセント」
「…yes?」



どうやら水色の髪をした男はヴィンセントという名前らしい



「I love you so fucking much」



ランスは鼻に入れたタバコを抜きながらそう言うとヴィンセントに投げキスをする



「Fuck you ass hole」



ヴィンセントは吐き捨てると振り返りもせずに部屋を出て行った



一人になったランスが少しの間ソファーでぼーっとしていると
テーブルの上に置かれた黒電話がジリリリリと鳴り始める

その電話を見つめたランスはタバコに火をつけ一吸いしてから受話器を取った



「hello,Lance」


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