四季 | ナノ











「では最後に、狛兎の鏡様」



またもや視線を注がれた白椿は、少し口を尖らせたまま話し出す



「勿論、協力でも提携でも提供でもするわ」
「ほう…ありがとうございます」



市松が白椿の発言に意外だなぁ、というような表情を見せた




「そして、連携するにあたって一番大切なのは信用です。親密な関係はどちらでも結構ですのでご自由にしてくださいな」




静寂の中で唯一口を開いたのは市松



「ですのでぜひとも藩主様同士でのご交流も視野に入れておいて欲しいものです。しかしこれはもはや藩主から始まる『般若』に対する防御ではありません。国として、藩として『般若』を打ち負かさなければなりません。ですから今回の招集も、会議も、協力も提携も提供も何もかもすべて出雲からの指示だと思ってください。いや指令、と言ったほうがよろしいでしょうか」



言い切った市松は真顔になって藩主たちを見渡す
今までの雰囲気から一変した市松はゴウゴウと背後から黒いオーラを出している
どうやらお怒りのスイッチを押してしまったようだ



「い、市松さん?」
「黙っていなさい」



市松は黒塚にそう言うと立ち上がり深呼吸をした

どうやら、市松が言いたいのは
別に恨みも何もないのであれば最初から連携して『般若』に備えておけば
こんな面倒くさい会議も開かなくてよかったのに今まで何をしていたんだ、と言うことらしい

叱られる藩主



「『般若』の平兵士。あの鬼の面を付けた『般若』たち。アイツらは一つとして死体を残しておりません。まったくの無証拠なのです。ましてや何の目的で何に攻撃をしたくて奇襲をかけてきたのかさえ分からないのですよ。さらに奇襲のかけ方も完璧。各藩の警備の入れ替わりの時間帯まで把握してあらゆる方向から奇襲をかけたのです。そして皆さんのご覧になられたでしょう、あの身体能力の良さ。妖怪本来の姿に近いあの姿は鬼に近かった…」



そこまで言った市松はゆっくりと微笑みに表情を戻し、手に持っていた資料をテーブルに叩き付ける





「迷っている時間などないのですよ、あなたたち藩主には」





藩主のほとんどが市松の異様な雰囲気に圧倒されている




「こ、コワイでござる…」
「ひえぇ…」



心と庵はそれぞれの執事の手にしがみついている中、クスクスと笑い始めたのが白椿と芙蓉
芙蓉に至っては笑いすぎて椅子から転げそうになっている



「「ははははは!」」



そんな白椿と芙蓉に視線が集まる



「お前ら藩主は黙って出雲に従え、ってことか。そうかそうか」
「僕、お腹痛いよ。こんなに笑ったの久しぶり…」
「…随分と舐められたもんだな」



藤堂も参戦してきたぞ



「…話は真面目に聞きなさい」



少し怒気を込めた市松が白椿と芙蓉を見て持っていたペンをバキッと握り折る
思わず全員が身構える



「あぁっ!待って待って!!!落ち着いてください市松さん!!!」



黒塚が微笑みながら暴力を繰り出しそうな市松を押さえている

ここから室内が騒がしくなる





「あぁ…すみません市松さん!鏡様なんてことを!芙蓉くんも何で笑うの!市松さんだって俺たちのことを思って…グハッ!」



一生懸命市松の怒りとその場をおさめようとしている小鳥遊のおでこに市松が投げた折れたペンがぶち当たる




「僕達も、甘く見られたもん、だねー」
「あんたもそう思う?」



視線を合わせ頷き合う白椿と芙蓉



「市松さん、あなたは危機感を煽っているのかもしれませんが、もうすでに危機感でいっぱいです。でなきゃこんなところに来ませんし」



毒を吐く江東



「「怖い市松」」



むっとした顔で市松を睨む本郷兄弟



「…呆れたもんだ、出雲の役人もこの程度か」



藤堂は冷や汗をかきながら鼻で笑っている
完全に見栄を張っている



「「………」」



怯えきって執事の腕に抱き着いている心と庵



「あぁ、それに…」



白椿はざわつく室内をよそに市松に話しかけ、そこまでいいかけると藤堂の方を見る



「全精力をあげてわが藩を復興している時にどこの藩からかはわからないが資金の援助を頂いた」
「………っ…」





藤堂は恥ずかしそうに白椿から顔をそらす
そう、実は復興の際に出雲からではないところから資金の援助が来たのだ
名前こそ伏せてあったが、資金の援助に来たものは鐘楼の方角から来た
バレバレな藤堂
ハンサムな藤堂



「ほわぁー…じゃあ、僕たちの所に、来たのも鐘楼の?」
「……あれは…」



ボケボケしている芙蓉にこっそり耳打ちしている執事の丁花
どうやら芙蓉の十八神藩にも他の藩からの支援があったらしい



「…あらら?そう、だったんだ。ありがとう」



芙蓉は明らかに本郷兄弟の方を見て手を振っている



「「やめろ馬鹿」」



双子そろって芙蓉にしっし、という動作を見せている










「前藩主同士は仲が悪かったかもしれないけど、今のところ心遣いは頂いてるわ。色々隠してて不仲説とか出回らせたあたしたちも悪いと思うけど、物の言い方に少し気を付けろよ?あの最後の百鬼夜行の時のようにひと暴れするところだった……」



白椿はにっこりして市松を見つめる



「そうですか。そうならそうと言ってくださればよかったのに。申し訳ありませんでした」



市松はにこにこ笑顔で一礼して席に着く
その市松の動きにいちいちびくつく心と庵




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