四季 | ナノ













少し間を開けた時、ビー玉を転がしていた真っ白な藩主がビー玉をキュッと掴んだ
ゴロゴロという音がなくなり無音になる



「綺麗なおねぇさんは、どこの藩の、藩主さんだったっけな?」



真っすぐに白椿に向けられた白い瞳と声は思った以上に子供っぽい
唯一色があるのはほんのりと色づく唇のみ



「狛兎」



単語だけで返事をした白椿



「うさぎさんかぁ…ピョンピョン、ってねぇ〜♪」



そう言った真っ白な藩主は上機嫌になったのか椅子の上に体育座りをしてニコニコと白椿を見ている
この藩主、かなり自由奔放



「鏡白椿っていうお名前と、美人さん、っていうことだけは僕も聞いてるの。ねー」



そう言った真っ白の藩主は隣に立つ執事を見上げる



「…はい」



いつ見ても機嫌が悪そうなその執事は普段は敬語を使わないのだろう
眉を寄せて真っ白の藩主を見ている



「僕はー…宝石の藩の姫芙蓉っていうの。この後ろのお兄さんは亨くん。よろしくねー」
「…丁花です」
「よろしく」



と、ここまで黙って話を聞いていた白椿の両隣の藩主が動き出す



「私もついでによろしいでしょうか」



先に口を開いたのは右隣の藩主
カーキ色の軍服を着た薄緑色のセミロングの男



「山門の江東蓬と申します。執事は国坂です」
「どうも」



横の白椿が何となく会釈をすると江東の後ろの国坂が眼鏡を押し上げながらニヤッと笑いかけてくる
この藩は藩主より執事の方が独特なのか





「俺も!御剣の小鳥遊祭です。それと、執事の青柳」
「よろしくお願いいたします」



元気はつらつとした話し方の小鳥遊はかなり好印象
執事の青柳君はちょっと怖そうだが…



「拙者!荒峰の朝比奈心と申します。よろしくお願いするでござる」
「衣笠です…」



最年少らしい挨拶をした心はにこにこしている





さーて、ここからが問題
残っているのは三つの藩



双子は『我、干渉せず』の表情でそっぽを向いている
そのそっぽを向いている方向も左右対称だ
流石双子…



小豆色の髪の気難しそうな藩主も同様
ただ違うのは色気のある彼の執事が困ったような表情をしている





そんな時、気の弱そうな藩主が自分ではなく白椿の方をめっちゃ見ていて
救難信号を出していることにいち早く気づいた漆原
『「あなたはどちらの藩の主様?」とか言って助けてあげてください』と密かに白椿に思っていた



白椿が真っすぐ気の弱そうな藩主を見て姿勢を正した



(お、ついに救難信号に気付きましたか。助け舟を出してあげてくださいね…)



漆原はここで白椿がうまいこと助け舟を出せたら今晩は晩酌に付き合ってもいいかな…と思った







「女の子?」







白椿の発した言葉に一瞬その場がチーン…となる

他の藩主たちの視線が痛い
本当に

特に気の弱そうな藩主とその執事のぽかーんとした表情がさらに痛い




(あんたが唯一の女藩主だって言ってんのに女の子がここにいるわけないでしょうが!!!!!このあんぽんたん!!!!!!!)




漆原は思わず白椿の肩を力強くグワシッ!!!っと掴む
白椿が少し唸るぐらいの力加減で









「「俺も思った」」









白椿の提出した問題に以外にも乗ってきた双子藩主
ホントに息ぴったりだな



「やっぱりそうよねぇ」
「「うん」」



一斉に視線を向けられた気の弱そうな藩主はうつむいてしまっている
でも確かに彼は可愛い



「で、どこの藩の主様?」



(一言多い!一言前に多かった!!その一言だけでよかったのに…)



漆原もうつむいてしまう



「…ほら」



仕方なし…といったように執事の方が気の弱そうな藩主を覗き込む



「……鶴亀藩の…竹千代庵です……っ…」



やっと聞き取れるぐらいの声で言った庵は死にそうなぐらい小さくなっている
あら?
でも声はかなりイケボ



「執事の千日です。どうぞよろしく」



真っ黒な髪の執事が深く頭を下げる
挨拶をした二人に満足そうに笑みを浮かべている白椿



「「俺たちは…」」



流れで説明しようとした双子はまたもや同時に話し始める
が、途中で黙り込みお互いの顔を見る



「おい、かぶせんなよ」
「うるさいなぁ。しょうがないじゃん」
「じゃあ黙ってろよ」
「そうさせてもらいますー」



軽く兄弟喧嘩をした双子はおそろいの不機嫌な顔を他の藩主に向ける



「俺たちは稲狐の本郷千鶴と千景。執事は百瀬だ」
「どうぞよろしく…」



オレンジメッシュの方の千鶴が話だし、苦笑いの白髪執事が小さく頭を下げる



癖が強い



そこで思わずみんなが思ったことを心が口に出す



「藩主はお兄ちゃんの方が継ぐのでは?」



双子藩主以外の藩主が頷く



「俺は藩主になりたくない」
「俺も藩主になりたくないの」



そんな双子藩主の言葉を補足するように彼らの執事の百瀬が口を開く



「でも、お二人なら引き受けてもらえるとのことでしたので…」



終始苦笑いの百瀬に同情するように白椿の右隣の江東が声をかける



「そちらの藩も大変なのですね」
「はい…」



何となく会話をすることができたが、まだ一つ残っている



「………」



この会場に入ってきてからずーっと仏頂面の男
バリアが堅そう





「鐘楼の藩主さん」





白椿の呼びかけに白椿の左隣の小鳥遊をはさんで彼は振り向く
黄色の瞳が鋭く白椿を見つめる





「お名前は?」
「藤堂だ」
「下の名前は?」
「…名字だけでいいだろう」
「教えて」





漆原は何となく白椿と藤堂の会話を聞いている

隣同士の芙蓉と心はビー玉を通して仲良くなっている様子



待てよ
これ本当に藩主同士の会議か?
もっとお偉いさんならきっちりかっちりしているんじゃないの?
なんだこのクラスの自己紹介みたいな…



このままではいけない!!!!





「…蛍だ」
「あら、綺麗な名前」
「ふん」



藤堂の機嫌がさらに悪くなったような気がする
やっぱり狛兎である白椿が嫌いなのであろうか



「すみません鏡様。執事の大道と申します。お見知りおきを」
「よろしく」
「おい、何に対して謝ってんだよ」
「だって主様が…」
「俺が何したってんだよ」



仲良く言い合いをする二人
なんだかんだみんな悪い人ではなさそう


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