そう言って菜の葉を連れてきたのは鈴蘭が一望できる縁側。 「ここの主さんに特別にお頼みいたしたのです」 「本当ですか? うれしいです」 菜の葉は燕に満面の笑みを向ける。 「本当にお綺麗です、菜の葉様」 真っすぐに菜の葉を見つめ、微笑みながら燕は言った。 菜の葉は一瞬言葉を返そうとしたが照れてしまってうつむいた。 「恥ずかしがることなどございませんよ?」 「でも、あの。ありがとうございます」 菜の葉は一気に力が抜けてしまって、何も言い返せなかった。 「…鴻殿と、この間城下へ行ったでしょう?」 「はい。少し迷惑をおかけしてしまいましたが」 「ふふ。そうでございましたか。鴻殿は…」 そこまで言うと燕はくすくすと笑い始める。 「?」 「申し訳ございません…少しおかしくて」 燕は笑いが止まらないようで口元に手を当てて必死にこらえている。 「私が、今日はどうでした?お楽しみになられましたか?とお尋ねいたしましたらなんてお答えされたと思われれますか?こうやって、腕組んで「聞くな」って」 そうすると再び燕は笑い始める。 「そ、そうなのですか」 「菜の葉様、鴻がこんなこと言うなんて珍しいのですよ? とっても機嫌がよさそうでした」 「本当ですか? ……それはうれしいです」 「菜の葉様は鴻殿にどんな手を使ったのかな?」 燕は小首をかしげながら菜の葉を観察する。 「いえ、そんな手だなんて。お話して花火を見せていただきましたけど……」 菜の葉は眉を困らせ燕の方に顔を向ける。 すると燕はすでに鈴蘭の方に顔を向けていて、その横顔は彼の優しい瞳がさらに強調されとても美しい横顔になっている。 「……」 自分を見つめる菜の葉に気づいた燕は、菜の葉を綺麗な景色でも見るかのように見つめ返す。 「燕様……」 菜の葉が頬を染めたとき燕は我に返る。 「あ、あぁ……」 「お疲れですか?」 「いえ。少し気を抜かしていました」 そういうと燕は菜の葉の真横に腰を下ろした。 「これ」 「花の……しおり?」 燕が菜の葉に手にのせたのは、青い紙に鈴蘭の押し花がされているきれいなしおり。 「思い出にと思いまして」 「嬉しいです。色々ありがとうございます」 「私こそ、ありがとう」 そう言って立ち上がった燕はいつものように菜の葉に手を差し伸べる。 「もう少し歩きたいのですが、よろしいですか?」 「はい。もちろんです」 燕が菜の葉の手を取り、いつもなら菜の葉が立ち上がると手は離されるが…。 「燕様?」 菜の葉は触れられたままの手を見つめる。 「……本当に美しいですね。うらやましいです」 そういうといつもの通りに手を放そうとする。 「……このまま歩いていただけませんか、燕様」 菜の葉のひどく求めるような声が燕を呼び止めた。 [演目] [しおりを挟む] |