Collusion ─相反の心─
序章

「依頼遂行」
 静寂の中で響く無機質な言葉。少女特有の高い声。
「わかりました」
 会話が一段落したのだろうか、携帯電話を閉じる音が辺りに響く。
明かりを灯すディスプレイを冷めた目で見つめると、反対の手に持っていた拳銃を自然な動作でホルスターに収納した。
目の前には人だった肉塊。
無表情に見下ろす黒いジャケットを羽織った人影。
先刻の声からして少女だろう、通り過ぎていく車のライトに照らされるのは、闇を纏った少女の姿。
線の細い輪郭。意志の強い切れ長の眼が冷めた闇を灯していた。

 白い壁、白い床。
白で埋め尽くされた空間が延々と続いていく。
黒尽くめの少女の姿は光に抗うように威圧的な存在感を放っていた。
すれ違う人間が一人もいないせいで、彼女の孤独な雰囲気が際立っているようにも思われる。
廊下を進んでいた彼女は目的の場所へ到着したの尾だろう、ピタリとある部屋に前で足を止めると控えめに二回だけ扉を叩いた。

「入りなさい」

 一拍置いて返ってきた静かな言葉に従い、彼女は扉に手をかけた。
「失礼します」
 扉を後ろ手に閉めると、目の前にいる人物に一礼をした。
「ご苦労だったね」
 机を挟んで向き合っているのは、金髪碧眼の男。
縁の無い眼鏡をかけた彼は少女に優しい眼差しを注いでいる。
「依頼は無事に終了しました」
 男は両手を組み、その上に顎を乗せる。
「短時間で片付いたようだね」
「はい」
 男は満足そうに微笑むと我が子を呼ぶように手招きをした。
「おいで、エル」
 エルと呼ばれた少女は、椅子に座っている彼の傍らに膝をついた。
「良い子だ」
 我が子を愛しむように彼女の頭を撫ぜる。
エルは擽ったそうに目を細め、無言で彼の温もりを受け止めていた。

***

 横たわる死体を見下ろす黒い人影。
銀色の髪が月明かりに鈍く光る。
「……」
 徐にポケットから携帯電話を取り出す。
「隊長、死体が転がってます」
 軽い口調で放たれる言葉。低く響いた男の声。
言動と今の状態が噛み合っていないさまが異様な空気を醸し出していた。
「片付けときます?」
 笑いを含んだ楽しそうな声音。
肯定の返事が返ってきたのだろう。
短く返事をすると、彼は通話を切った。
携帯をポケットにしまい、目の前の亡骸を見下ろす。
「仕事熱心な奴がいるもんだねぇ」
 口元を歪め、冷め切った目を細めた。


 会話を終え電話を切ると青年は背を向けていた人物に再び向き合った。
「失礼しました」
「気にするな」
 彼の謝罪を予測していたのか、目の前に座っている男は軽く手を振った。
肩にかかったクセのある金色の髪を軽く払い、深い蒼の眼を青年に向ける。
「それで?」
 男は彼の言葉を促す。
その言葉に従うように一礼して口を開いた。
「要人が殺害されていたそうです」
「またか」
 男は面白そうに目を細めた。
「今回で何人目だ?」
「三人目です」
 青年が淡々と男の問いかけに答える。
「手間が省けるな」
「呑気なことを……」
 男の軽はずみな発言に嘆息を零す彼。
しかし、男は驚異的な言葉を口にした。

「刃向かう奴は潰せばいい」

 低く響いた声音。
青年は顔色一つ変えることなく肩を竦める。
「動くのは我々なのですが……」
 彼の言葉に男は小さく笑った。
[*前] [次#]

栞を挟む目次

TOP




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -