記憶-My favorite family-
 そろそろ傍に何かが居てほしかったあの日。
無論それは恋人ではない。
私の心を癒してくれる、そんな存在がほしい。
そうだ――
 
 

 私には姉妹がいる。
それもとびっきりに自慢な姉妹。
でも時は速いもので、いつまでも一緒にいる訳にもいかず別れの選択を取った。
あれから姉妹たちは元気にしているだろうか。
もう恋人はいるのだろうか。
そんな思いの連続の毎日。いい加減気づけ私。
もう昔なんて私には関係ないんだ。
 私のそばにはこの子がいる。
姉妹には至らないが、今一番大切な家族。
名前はまだ決まってないけど――
 
 

 ことの始まりは一番下の妹のちょっとした言葉からだった。
それはまるで魔法のように私の心に浸透した。
「お姉って何か飼わないの?」
「え?飼うって……犬とか?」
「そう、ペット。それ以外に何があるの。」
「あ、あはは。そうだよね……」
 考えもしなかった。
それはペットを飼うということ。
何かしらお金は掛かるし世話が大変。
そんな理由で私は避けてきた。
「お姉はそうだなぁ…文鳥なんてどう?」
「文鳥?文鳥ならまだネコの方が……」
「ネコだね!?じゃあ次に来る時にでも資料持ってくるねっ」
 言うのが早いか去るのが早いか、彼女はすぐに飛び出していった。
それも目の色を爛々と煌めかせて飛び出していった。
「あ、ちょっとっ……はぁ。」
 昔から何も変わってないなぁあの子は。
事が決まれば即行動!即日解決!
どこかの会社のキャッチフレーズみたいだけど、それがあの子の一番輝けることだから私は何も言えない。
そう、あの子はまるで人懐っこい犬みたいな子だ。
 
 

 あれから翌日のことだった。
朝早くから携帯が鳴り響き手に取る。
『今から大丈夫!?』
 呆れた。
次ってもう今日のことだった。
私はまだ飼うと決めた訳でもない。
何しろ飼える勇気が私には無い……。
「え、あ、うん……いいけど」
『鍵開けといてね!』
 ツー。ツー。ツー。
そんな電子音が耳に響く。
寝起きの私には大音量で鳴らされてるような感じだった。
仕方なく私は玄関の鍵を開けておく。
これで開けてなかったら雷が落ちるのは間違いないから。
 それにしても、まだ眠たい。
時計を見る。8時。いつもならまだ寝ている時間だ。
今にも寝そうに起きていると、分足らずで入ってきた。
いつもの様子だなぁ。なんて心に思いながら。
「これなんてどう!?お姉にも良さそうだし何しろ可愛いし!あぁっ見てるだけで癒され……」
 その後数時間はずっと話を聞かされた私。
誰か代わりにいてくれる人はいないの?
さすがにゆっくり寝かせてほしい。
しかし私の些細な願いは叶わず現実に戻される。
「ミケが私はいいと思う……」
「そうだね♪お姉にはミケが一番合ってるかな」
 私が生きてきた中で一番の急展開だったと思う。
何しろ、命を持ってる存在をすぐに飼うと決めてしまった。
全責任は私にしか無い。
全ては私に掛かっているのだから当たり前だ。
 それからというもの、私は妹と共に目的の場所に来ていた。
ネコを飼う。
こんなことになるなんて夢にも思ってなかった。
私には妹たちがいれば良いなんて思ってたけど、一人では寂しい気持ちになってしまう。
だから私は、少しでも紛らわせる為に。
家族を増やす為に――
 
 

『お姉、あの子のこと。覚えてる?』
「覚えてる。だって一番大事な子だったから」
『そうだよね。でも……』
「大丈夫だよ。私にはもう家族がいるんだから。」
 名前も決め、大事に可愛がってきた子が去ってから数年が経っていた。
あの時、私は何もかもを失った気がして泣き伏せた。
あんなにも短い共生がこんなに辛いものと分かっていたが私には死というものが理解できなかった。
本当は寝てるんじゃないのかと。
何度も何度も疑った。自身を疑った。
でも、疑っても結果は変わらない。
死という運命は覆せない。
その逆も同じなんだ――
 
 

 昔なんて関係ない。
私のそばにはこの子がいる。
姉妹には至らないが、今一番大切な家族。
その子の名前は"もみじ"
私の大事な家族――
 
 
愛でし子を
  忘れず想う
    母の色――
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