架け橋
水は日の光を反射して

空に橋を架ける

どちらが欠けても

それは

成り立たないんだよ…



【架け橋】

 あるところに小さな村がありました。
その村の奥には人が入ってはいけない聖域が存在していました。
そこには光を司る神様が祀られていると言われていました。

人々は神様を崇め、その場所に踏み込むことを禁じました。
聖域が穢れてしまうと考えたからです。


そんなある日のことでした。
村に住んでいる男の子が母親に内緒で、村の奥へと探検に行きました。
好奇心の強い男の子は神様に会ってみたくなったのです。




村を抜けると鬱蒼とした森が広がっていました。
大きな木々のせいで太陽の光を遮っているようでした。
男の子は臆することなく森の中へと進んでいきます。
薄暗い森の中に、小さな石の祭壇を見つけました。
祠と呼ばれる場所です。
その前には、女の子が一人座り込んでいました。

「どうしたの?」
 男の子は心配そうに声をかけます。
女の子は驚いたように顔を上げました。
ビー玉のような大きな目が真ん丸に見開かれています。
「ここは危ないんだよ」
 男の子は近寄っていきます。
女の子は怯えたように震えています。
近くで見ると、大きな目から大粒の涙が零れていました。
「どうして泣いているの?」
 男の子はハンカチを取り出し、女の子の涙を拭いました。
「……」
 拭いても拭いても女の子の涙は止まりません。
「泣かないで、ボクまで悲しくなっちゃうよ…」
 男の子はそう言って泣き始めてしまいました。
「どうして、あなたも泣いているの?」
 女の子は男の子に尋ねました。
「わからない。キミが悲しいと、ボクも悲しくなるんだ」
 男の子はそう言って涙を流し続けています。
女の子は花が咲いたように笑いました。
涙はいつの間にか止まっていたようです。
「泣かないで」
 今度は女の子が男の子に言いました。
男の子は首を傾げながら困ったように言います。
「どうやって、とめればいいの?」
 男の子は涙の止め方を知らなかったのです。
男の子は泣きながら笑いました。
女の子も笑顔になります。
しばらくすると、男の子の涙は止まりました。
「ウサギみたいだね」
「うん」
 二人はおかしそうに笑い合いました。



二人で話している内に辺りは暗くなり、森は真っ暗になってしまいました。
闇に慣れていない彼の目は、真っ暗で何も見えませんでした。
男の子は急に心細くなりました。
すると女の子が一輪の花を男の子に手渡しました。
「この花に明かりが灯ったら、まっすぐにこの森を駆け抜けて」
「キミは? 一緒に行こうよ」
 男の子は女の子に手を差し伸べました。
しかし、女の子は首を横に振りました。
「ありがとう。あなたに会えて嬉しかった」
 男の子は分からないと言ったように首を傾げます。
女の子は悲しそうに目尻を下げ、男の子の手を握りました。
柔らかな日の光に包まれたように暖かでした。
男の子は驚いて女の子を見た瞬間。
花に光が灯りました。
同時に女の子は力いっぱい男の子を突き飛ばしました。
「!」
 男の子は突然のことで尻餅をついてしまいました。
「さよなら」
 その言葉を最後に女の子の姿は見えなくなりました。
男の子は花を見つめ、女の子が言った通り村の方向へと走りました。
木々が彼を避けるように一本の道を作っていきます。
花は真昼のように男の子の視界を照らします。


村が見えた途端、花は光を失ってしまいました。
男の子は不思議に思い、母親に話しました。
しかし、母親は信じてはくれませんでした。


 女の子に会ってから、三日が過ぎました。
男の子は森で会った女の子が忘れられません。
泣いていた女の子。
一人で寂しくないのでしょうか。
「暗い森できっと寂しくて泣いているんだ」
 男の子はもう一度女の子に会いたいと思いました。
しかし、暗い森を明るくする方法を知りません。
そこで男の子は村の友達に声をかけることにしました。

集まったのは、男の子を入れて6人でした。
男の子は、みんなに花を見せて女の子のことを話しました。
「森の奥は危険なんだよ」
 一人が怯えたように言いました。
「お母さんが行っちゃいけないって」
 もう一人が注意するように言いました。
しかし、男の子は怯みません。
「でも、森の奥で泣いてたんだ」
 すると、一人が賛同するように言いました。
「一人は寂しいよ?」
 その言葉に反対していた二人も頷きました。
そこで、男の子は本題に入りました。
「森が暗いから、怖がってるんだと思うんだ」
 みんなは真剣に男の子の話を聴いています。
「だから、森の中を明るくしたいんだ」
 その言葉を聴き、5人は一斉に腕を組み、考える素振りを見せます。
一人が手を打ち、言いました。
「森にランプをつければいいよ!」
「それいいね!」
 周りが肯定しかけた時です。
「森が燃えちゃうよ」
「………」
 一人の厳しい言葉に周りが静まりました。
「それじゃあさ」
 一人が新たに口を開きます。
「鏡で光を届けようよ!」
「鏡で?」
 男の子を含めた5人は首を傾げています。
「そうだよ。鏡に光を『はんしゃ』させるんだ」
「うまくいくかな…?」
 男の子は不安そうに呟きました。
しかし、他に方法が見つかりません。
その結果、一人ずつ鏡を持ち寄ることになりました。
「お母さんに言わなくていいの?」
 一人が言うと、男の子は首を横に振りました。
「大人は信じてくれないんだ」
 男の子は悲しそうです。





そして、次の日になりました。
大人が寝静まった夜明け前。
子供達はそれぞれの鏡を持って集まりました。
みんな眠たそうな顔をしています。
男の子は真っ先に森の奥へと向かいました。
そこには、小さな祠がありました。
その前には、この前と変わらない女の子の姿がありました。
座り込んで泣いています。
男の子は女の子の隣に座りました。
「泣かないで」
 いつの日かと同じ言葉をかけます。
女の子は驚いたように顔を上げました。
「…どうして?」
 目を真ん丸に見開いています。
「キミに渡したい物があるんだ」
「?」
 女の子が首を傾げていると、村の方から声が聞こえてきました。
日が昇り始めたのです。
森の入り口に立っていた子供が、鏡の角度を調節して森に光を送ります。
残りの子供達も森の中で、光を見失わないように反射していきます。
女の子が不思議そうな顔をしている横で男の子が鏡を持って立ち上がりました。
そして、最後の反射した光を男の子は鏡で受け取り、少女を照らします。
弱い光ではありましたが、暗い森は明るくなりました。
「もう、こわくないよ」
 男の子は笑顔で言いました。
女の子は涙を拭い、笑いました。

その時です。
突然、森の木々たちが成長を始めたのです。
グングン背を伸ばし、枝葉をいっぱいに伸ばしていきます。
そして、枝葉の間から日の光が差し込み、森の中を明るく照らしたのです。
草原も木漏れ日に照らされた場所を中心に花を咲かせていきます。
森の変化に子供達は驚き、男の子の場所に集まりました。
男の子も目を見開き、女の子を見つめています。
女の子は優しく微笑み、言いました。

「ありがとう。私だけでは、この木々を動かせなかった」
 女の子はそう言って一礼をしました。
女の子は祠に宿る神様だったのです。

起きてきた大人たちは森の変化に驚き、子供たちは神様が寂しがっていたことを話しました。
それ以降、神様と人々は助け合うようなりました。



 その後、森は村の憩いの場となり、賑やかな場所となったのでした。



めでたし。

めでたし。



【終】

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