月夜にて

 私、普通の猫なのですが、普通といっても野良猫です。
人間に飼われている温室育ちと一緒にされては困ります。
さて、そんなことは横に置いておきまして。
私が何をしているのかといいますと、なんてことはありません。
私の縄張りに入ってきた人間を観察しているんです。
この場所は月が良く見えるんです。
フェンスの建てつけは最悪ですが……。
 この男も月を見に来たのかと思ったんですが、どうやら違うようです。
月見でなければ一体何をしに此処までやってきたんでしょうね。
わざわざ六階建てのビルに、更には屋上まで登ってくるなんて。

何を考えているのやら。

 フェンスの前を行ったり来たり。
傍で眺めている私にも気が付かないのですから、よほどのことがあったのでしょう。
男はフェンス越しに下を覗き込んでいます。
何を眺めているのか気になりましたが、車の行き交う道路しかないはずです。
車でも眺めているのでしょうか。
そんなものを見ても面白くないと思いますよ。
 まさか、この男。
飛び降りに来たのでは無いですよね。
なんと迷惑な。
未だにフェンスの前に立ち尽くしている男に「危ないですよ」と鳴いてみました。
男は驚いた様子で振り返り、私を見るとホッとしたように「猫か」と呟いたのです。
私以外にニャアと無く生き物を探してきて頂きたいものですね。
男は安心しきった様子でフェンスにもたれ、そのまま落ちて行きました。
ええ、落ちたのです。
飛び降りる手間が省けたかもしれませんね。
この場所に人が来るのも減ることでしょう。
それにしても、今日は綺麗な三日月です。

足元の騒ぎなど気にも留めず、黒猫は頭上に浮かぶ三日月を眺めていた。

『終』

110413 完成
111020 掲載



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