※オリキャラ出ます
隊商の貨物車に揺られて1日、シンドバッドは東方で勢力を伸ばす国―――煌帝国にたどり着いた。
煌帝国の城下町は活気に溢れており、民自身らも国の繁栄を喜んでいるようだ。
隊商は煌帝国にきて商いのするのではなく、直ぐに宿をとった。まだ日も高い。何故だ?というシンドバッドの問いかけに隊商の長ラヴァーンは答えた。
「俺らが煌帝国で商売する相手は民ではなく国だ。国が発注した布や香辛料をおさめにきたのさ」
「国ご用達なのか!すごいんだなラヴァーンの商隊は」
自らがまとめる商隊を褒められ嬉しいのかラヴァーンは頬をかいた。
「まぁな。正式な通商日は明日だし、国に商品を納めるからには身だしなみをきちんとしなくちゃならないからな。今日の残りはそれにあてる」
「なるほど」
「ところでシン」
ラヴァーンは悪戯に笑んで紙を差し出した。それは煌(ファン)と呼ばれる煌帝国の紙幣だ。
シンドバッドは首をかしげる。
「お使い頼めるか?お前の宿代分の」
「宿代?いや、そこまで世話になるわけには」
「いやいや、お前の話はおもしろい。商業に使えそうなほど巧みな話術だ。どうだ俺の商隊に入らないか」
ラヴァーンの目が真剣であり、お世辞の勧誘でないことはシンドバッドにはすぐ伝わった。
シンドバッドは肩をすくめて、残念そうな表情で言う。
「誘いはうれしいんだが、悪い。俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
「そうか。そのやらなきゃいけないことが無くなったらよ、そんときゃ頼むぜ」
交渉において引き際をしっているラヴァーンは、さすが商人である。シンドバッドはその手際良さに感心した。彼の商隊が栄えているのも頷ける。
取りあえず今日はお前の送別会ってことだ。それで好きなもんでも買ってこい。あと、宿代は任せとけ。
そう言いつけたラヴァーン。もらった煌(ファン)を持ち、シンドバッドは煌帝国の首都を歩く。お使いと行っても、自分の好きなものを買ってこいと言われてしまったため、足取りは気ままだ。
露店に並ぶ煌帝国ならではの特産品を、冷やかしのように見て回る。
顔立ちや服装やらが異国の出で立ちであるシンドバッドに、店の者は声をかける。その話を聞いたり交わしたりしつつ、シンドバッドは軽やかに商店を通り過ぎていく。
目立ちの整った花売りの女性にシンドバッドがついつい目を奪われていた、その瞬間。夢から形を成した玉が、光を放った。
シンドバッドは気付いて直ぐに腕を押さえた。昼の日差しの下でも分かる発光の強さ。どうすればよいのか分からないシンドバッドに、声を掛ける人影。
「どうしましたか、腕を押さえて。大丈夫ですか?」
清潔感を醸し出す汚れなき白い衣、凛とした佇まいに、穏やかな口調。まだ幼く見える容姿に、確かな意志を灯す者。
そんな印象を与えられたシンドバッドは、冷静さを取り戻す。
「大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
「そうですか、良かったです。あなたは見た所他の国から来たようですし、馴れぬ地で体調に異変があれば大変かなと思ったので声をかけましたが」
問題ないようですね。失礼しました。そう言って、和やかに目元をゆるませる少年。出で立ちをうかがえば、それが庶民のものではないのは明白で。煌帝国の貴族や官僚の息子かも知れないと、シンドバッドは考えを巡らせた。
そのまま去るかと思われた少年は、立ち止まりシンドバッドの腕を凝視した。シンドバッドはさり気なく腕を後ろに回したが、何事も無かったようには出来なかった。
「君の腕、もしかして」
「なんだ?」
「ちょっとこっちに来て!」
「困る!今俺はお使い中なんだ!」
煌帝国で騒ぎを起こすのはいけない。今の容姿はシンドバッドに似ているし、もしなにかあれば困るのだ。わざわざいらぬ波をたてる必要はない。
少年は話が進まないとばかりに声を低くし、シンドバッドに語りかけた。
「我が名は青舜、煌帝国第一皇女・練白瑛が眷属。君のその腕輪は、今裏で出回っている“偽金属器”の可能性があるから、ちょっと来て」
「偽金属器?」
青舜の名乗りに目を見開いたシンドバッドは、偽金属器という言葉にいっそう丸くなる。青舜は頷き、説明を始める。
煌帝国は今領土を広げている最中である。東西南北の戦に煌帝国が勝ち続けているとはいえ民に不安がない訳ではない。国の政策を支持する民もいたが、一部の民は自らの生活を守るために行動するようになった。
「それで登場したのが、偽金属器です。皇族がジンの金属器で力を得たことに起因しているのだと思いますが…」
力のないただの偽物なら良かったのだが、それが違ったのだ。偽金属器は不思議な力を発揮し、ついには死者を出してしまった。
「我が主はそのことをいたみ、私に調査を命令しました」
死者を出す偽金属器。ひょんなきっかけから煌帝国の問題を知ったシンドバッドは、しかし冷静な頭で青舜に掴まれていた腕をはがした。
「これは恩人にもらったものだ。偽金属器ではないさ。じゃあ俺は急いでるからまたな!」
「え、ちょっと…待って!」
一瞬で青舜から距離をとったシンドバッドは、お酒や簡単なおつまみだけを買って市場から離れた。
厄介事に首を突っ込むのは、トキに断ってからでないといけない。この体はトキのものであり、シンドバッドの正義感だけで傷つけてはいけないものだからだ。
輝きがおさまった腕輪を、シンドバッドは眺める。どうして輝いたのだろう?トキに聞けば分かるだろうか。
そう考えているシンドバッドが立つ場から遥か上空。高度をあげていく空飛ぶ絨毯に座り込んだ青年は、手を意味なく揺らしながらぼやく。
「あー?なんか変なルフ感じたんだけど、気のせいか?」
王様の3日目