花の舞



(ジャーファル視点)


「魔法…今ここでですか?」

 昨日から急に現れた少女は、この時はじめてシンの要望にすぐに答えなかった。それまではどんなものにも答えていたというのに。

「どうしたのですか。何か使えない理由でも?」

 私がそう聞くとサクラはさらに押し黙ってしまう。

「あ…そう言えばサクラちゃん杖持ってないわね。魔法使いは基本、杖を持っていないと魔法を使えないものね」

 でも先ほど彼女はアリババくんに魔法を使っていた。そのことがあるから杖は持っていなくても使えるであろうことは予想がつく。

「じゃあ、その、もうちょっと広い場所に移ってもらってもいいですか?」

 サクラが控えめに提案したことを受け入れ、一行は中庭に移動する。
 サクラは中庭のちょうど中央付近に立つ。そこから中庭の端の方に立つ我々を振り返り、「魔法使いますね」と宣言した。

 シンも楽しそうに目を輝かせているが、ヤムライハは直視に耐えないくらい興奮して危ない状態になっている。
 私はサクラの危険性をはかるためにじっと彼女を見据えた。

「マヒャド」 

 彼女がそう言うと氷の塊が空から彼女目掛けて降り注いだ。その光景に思い出すのはジュダルが得意とする技“降り注ぐ氷槍(サルグ・アルサーロス)”。
 ジュダルのことを思い出したのは私だけではないようで、みんな目を見開く。
 徐々に地面に近づく氷塊。固まっていたアラジンが「危ない!」とサクラに叫んだ。
 サクラはアラジンに微笑みかける。大丈夫だと言わんばかりに。

「ベギラゴン」

 光と熱の龍が落ちてくる氷塊を溶かして、水になる。その水すら龍の熱に水蒸気になった。
 龍が空に昇っていく。サクラはその空を見上げてまた魔法を唱えた。

「イオナズン」

 龍の腹が膨らみ、激しい音と共にはじけた。龍の頭も尾も爆発して跡形もなく弾け飛んだ。
 ヤムライハが「きゃっ」と悲鳴を上げる。シンも頭上を睨みつけ、「今結界に亀裂が…」と呟いた。
 結界を直接狙ったわけも無いだろうに凄まじい破壊力だ。サクラはさらに呪文を唱える。


「メラゾーマ」

 最初の氷の冷たさとは逆の燃えたぎるマグマがおおきな球体で空に浮かんでいる。それからは、ぐつぐつという沸騰音が聞こえてくる。あれにあたれば、人など一瞬で焼かれ死んでしまうだろう。
 サクラはその球体を浮かべたまま、水を含んだ風を巻き起こした。

「コーラルレイン!」

 彼女が唱えると、水の竜巻は上へ上へ、うねりながら大きくなっていく。その水流に削られマグマの塊が小さくなっていく。
 盛大な魔法の連続になんだなんだ一体何が起こっていると城にいる文官や武官、侍女たちが中庭に集まってきていた。

 サクラはそれに気づいているのかいないか、竜巻を起こし続け、ついにはマグマの球体を消した。水流は巻き上がったままで、太陽の光に反射して輝くのをみんなが見つめる。しかしそれは長くは続かずにはじけた。

 はじけた竜巻からは、ひらひらとなにかがふってくる。腕を伸ばして掴むと、小ぶりの小さなつぼみをいくつかつけている花だった。
 私と同じように降ってくる花を掴んだシンとドラコーンは、はっと息をつめた。

「この花は!」
「パルテビアによく咲く花だ…」

 故郷を思ってか、2人が懐かしげに眉を下げる。未だ舞い落ちてくる花。
 中庭に集まっていた者たちがわぁと歓声をあげる。パルテビア出身者が特に大きな声をあげた。

 アラジンが花の雨を走り抜け、サクラの元へ向かう。アリババくんもモルジアナも髪に花をくっつけながらもアラジンと共に駆けていく。
 サクラは勢いよく飛び込んできたアラジンを抱き留めた。しかし勢いが殺せず、後ろに倒れそうになる。そのサクラをアリババくんが支えるが、体勢が悪かったためぐらつく。
 3人もろとも倒れるかと思った所で、モルジアナが3人を支えきった。

「サクラお姉さーん!これどうやったんだい!?すごくきれいだよ!」
「アラジン!急に飛び込んだら危ないだろうが!モルジアナ、助かったありがとうな」
「お二人とも落ち着いてください。サクラさん大丈夫ですか?」
「うん大丈夫だよ。モルジアナちゃんありがとう」

 ちゃんと立ちなおした子どもたちは、魔法についての話を始めた。アラジンもアリババくんもモルジアナも、楽しそうに。
 サクラは何故、最初魔法を使うことへ戸惑ったのか。私は不思議に思う。

「こんなに魔法使えるのに、最初何で嫌がったんだよ」
「えっとねこの花の魔法はサーカス用の魔法なの。だから見せていいのかどうか迷ったんだけど、皆さんにはお世話になってるし見せちゃおうかなって思ったの」

 なんだそんな理由か。私は肩から力が抜けるように感じた。シンドリアに害をなしそうな打算も何も、彼女には存在しないように思った。
 シンが言うように、彼女は自分の帰郷を望んでいるだけなのかもしれない。

 彼女を疑ってかかる気持ちが和らぐ。子どもたちがあんなに懐いて、ヤムライハが言うにはルフが澄んでいて、マスルールに言うには嫌な匂いがしない。
 私自身も、彼女からは嫌な気配を感じないのだ。それに彼女は、

「すごいぞジャーファル。まるで花の雨だな!」

 シンドバッドを笑わせてくれた。シンが彼にとって懐かしい花を抱えて、含みもなく笑っているのだ。

 彼女は、敵ではない。
 私はそう結論付けて、アラジンに振り回されるサクラをみた。



花の舞


prev next

 top



 
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -