嘆願する



 

 八人将のひとり、シャルルカンと呼ばれた人が怪魚を解体し盛り付けた。
 それはあっという間の出来事でその剣裁きに思わず見とれてしまった。
 昔の仲間たちも剣の扱いは物凄かったが、この人も相当な使い手だ。旅で分かってはいたが、この世界も安全ではないらしい。

 私はなにやら話している王様たちに駆け寄る。八人将や王様が私の動きに気づき、身構えた。
 そうされると私は直ぐに跪き頭を垂れた。

「シンドリア国王、シンドバッド様とお見受けして頼みたいことがあります。無礼なのは承知しておりますが、申し上げてよろしいでしょうか!」

 この世界の礼を表すらしい形を両手で取りながらそう告げる。女の子?と金髪の男の子が呟いた。
 王様は手だけで八人将を制し、私に話しかけてくれた。

「まず頭を上げてくれないか。それにお嬢さんに跪けられるほど私は凄い人間ではないよ」

 恐る恐る顔を上げると、紫の長髪をたなびかせた美丈夫が目に入る。

「シンドバッド様、ですよね」
「あぁ、俺はシンドバッドだ。お嬢さんは?」
「私はサクラといいます。御前に姿を表していいような者ではありませんが…」

 私はシンドバッド様の瞳を見つめたまま語る。

「サクラ、そう畏まらなくてもいい。何を俺に頼みたいんだ?」
「私は、私はあなたに迷宮について尋ねたくて参りました!」



(アリババ視点)

 南海生物を仕留めてこれから宴が開かれるらしい。宴ってことは美味しいご飯!と盛り上がるアラジンと話していると、こちらに女の子が走ってきた。
 その子の、ひらりとたなびく衣服が視界を占領した。

 女の子はシンドバッドさんに近づいて、それに気付かれるとすぐに地面に片膝をついて頭を垂れた。

「女の子…?」

 女の子は言葉を重ねる。頼みたい事があると。シンドバッドさんが何を頼みたいんだと聞く。
 並々ならぬ雰囲気に、シンドバッドさんと八人将の皆さんが眼差しを強くして女の子を見ていた。
 サクラと名乗った女の子は、その重圧をものともせず、強く何かを求める瞳で告げた。

「私は、私はあなたに迷宮について尋ねたくて参りました!」

 小綺麗で衣服もしっかりしたものを身につけている女の子が、迷宮について知りたいと言う。
 それもただの興味ではなく、本心から。
 それは瞳を見れば分かる。サクラの目には強い意志が宿っていたから。

 シンドバッドさんもそれに気づいたのか、優しく笑って応えた。

「なんだ。そういうことならお安いご用だ。今日はこれから宴でな、その席でまたサクラの話を聞かせてくれないか」

 シンドバッドさんの言葉にサクラはありがとうございます!と地面に頭をこすりつけるように礼をした。
 慌てたシンドバッドさんがサクラを立たせる。サクラは泣きじゃくっていた。それにまた慌てたシンドバッドさんは、大丈夫だからな!?迷宮について知りたいならなんでも教えるからな!と言い募った。

 しゃっくりをあげながら、ありがとうございますと繰り返すサクラの姿を見て、ジャーファルさんたちは警戒を緩めたようだ。

 それを少し離れた位置でみていた俺たちは、顔を見合わせた。

「迷宮の話なら俺らも助けになってやれるな!」
「そうだねアリババくん!」
「…はい、私サクラさんの助けになりたいです」

 彼女からはきれいなお花と清流の香りがします、モルジアナがそう言う。
 ルフもきれいだよ!とアラジンも言う。

「俺も嫌な感じはしないな」

 サクラとも友達になれるかもな、俺の言葉にアラジンもモルジアナも嬉しそうに頷いた。



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