寄り道は旅の醍醐味



 

 レーム帝国を出発してから約半年、アクティア王国にたどり着いた。しかし治安が悪かったため、一週間程度の公演で王国を離れた。
 その後はエリオハプトやアルテミュラ、パルテビアといった大小様々な国を訪れ、サーカス団の知名度は上がっていった。
 その国々の歴史などの背景を考え、演目を変えたのが良かった。どの国でも大好評のうちに幕を閉じる公演。
 これには団長もサーカス団員も大喜びで私が拾われた時よりみんな明るくなった。

「もう最高!あんなに喝采を浴びられるなんて、私の人生に悔いはないわ!」
「おれの動物芸もめっちゃうけてたぞ。やっぱり動物たちはすごいんだなぁ!」

 公演終了後のバックは盛り上がりがはんぱない。みんながお互いを褒めあい、自分の芸がいかに盛り上がったかを語るのだ。

「本当に、サクラが来てくれてから我がサーカス団は良いことばかりだ」
「今まで団長たちがやってきたことが世界に認められただけですよ」

 団長に笑いながらそう言うが、私の気はまったく別の所にあった。予定では次はシンドリアに向かう。やっと迷宮の足がかりが掴めるのだ。
 これが落ち着いていられようか。アクティア王国を出てから多種多様な国に行ったので半年、レーム帝国から旅立って…私がこの世界に来てから約1年経っている。
 その間に私は“シンドバッドの冒険書”を読んだり、鍛錬したりでいつ迷宮が来ても大丈夫なように努力した。

 これも元の世界に戻って花の高校生になるため!…やっぱり何度数えても、もう卒業してしまっている年になってしまったが。
 でも元の世界に帰ってもどうしよう。もう勉強のことなんかほとんど忘れちゃってるし。…まぁそれは戻れてから考えたらいいか。

「楽しみだなぁシンドリア!」

 私は張り切って立ち上がる。そうすると団員たちに芸をせがまれ、私は見た人の体力が回復するハッスルダンスを踊った。
 宴は当分終わりそうにない。




 その夜から2週間ほど経った。そして私はようやくたどり着いたのだ。迷宮攻略者が作り上げた南国の楽園、シンドリアに!
 シンドリアは島国であり、そこまで広くない土地に王が各国から助けてきた難民を引き入れているため、建造物の造りは複雑になっている。
 国営商館は外国人旅行者をもてなすための施設が揃っており、サーカス団もそこの劇場を借りて公演することになるようだ。

 まず、公演の許可をもらうために団長が王宮に出向こうとした。その時、果樹園の方から獣の声が聞こえてきた。振り返ってみてみると、遠い場所からでも確認できるくらい大きな怪魚がいた。

 思わず二度見した。そして足を速くする呪文をかけて怪魚に向けて走った。

「団長さん!私あの怪魚倒してきます!」
「待てサクラ!お前が強いのは理解しているが無理は!」
「団長、大丈夫よぉ。だってサクラ、シンドリアへの航海中、あの魚の化け物3体も倒してじゃない」

 けらけらと笑ったパフォーマーのお姉さんの言葉を聞き取らないまま、私は走った。
 入り組んだ街並みに苦戦しながら、ようやく果樹園に到着する。

「みんな!あぶねぇから逃げてくれ!」
「!?なぜみんな喜んでいるの?」

 金髪の男の子と赤髪の女の子がそう困惑している。女の子の言うとおり危ないはずなのに、シンドリア国民のみんなは笑顔だ。何故だ?その疑問はすぐ解決される。

「来たぞ!我が王と八人将たちが!!」

 私は面を上げた。そこには凛々しく立ち構える9人の強者。シンドリアの王シンドバッドと、シンドリア最強の戦士八人将の姿だった。



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