色気



 

 “シンドバッドの冒険書”を広げ、質問をしていた少女。シンドリア王宮は煌帝国からの使節を受け入れる準備をしており、どこか慌ただしい。しかしこの空間は穏やかに時を刻んでいた。

「シンドバッド様?」

 目の前を首を傾げる少女を、シンドバッドは見つめかえす。少女は戸惑ったようにしかし笑ってシンドバッドの言葉を待つ。

「いや、ずいぶん受ける印象が違うと思ってな」
「謝肉宴と今とでですか?サーカス団のみんなにもよく言われますよ」

 少女の微笑みでそうかえすサクラにシンドバッドも笑いかえす。
 普段の様子からでは考えられない。サクラが踊る時にみせた艶やかさも、戦うときにみせる眼光の強さも。

 書物を抱えシンドバッドに質問してくるサクラは、どこにでもいる女の子だ。

「また君の踊りが見てみたいよ」
「いつでも踊りますよ。シンドバッド様のために」

 サクラの裏のない信用に報いることができないシンドバッドは笑顔を固くする。そんなシンドバッドには気づかずに、サクラはそういえばと呟いた。

「シンドバッドさんってすけこましなんですよね!」

「すけこま…!?一体誰がそんなこと」

 先ほどまで純粋に見えていた少女がいっきに悪魔に変身した。シンドバッドは立ち上がって否定を始める。サクラは特に悪いことを言ったとは思っていないようだ。

「町の評判でしたよ?それでシンドバッド様にお願いがあるんですけど、私最近使っていない特技とかあたらしく覚えた特技が試せていなくて、お付き合い願えませんか?」

 サクラが真剣に言うものなので、すけこましと言われたことは一旦おいて、シンドバッドは話を聞く姿勢になった。サクラの新たな技を見るいい機会でもあるし。

「それはどんな技なんだ?」
「お色気技です!ただ普通の人に使うと勘違いされてこまるので、女の人慣れしているシンドバッド様なら耐性があるかと思って…」


サクラはいたく真剣に言い放つものだから、シンドバッドも力を入れて頷く。おいろけ技に興味があったわけではない。決して。

頷いたシンドバッドにサクラは喜び、お願いします!と大きめの声を上げた。

お色気技とは、セクシーさを利用した攻撃である。主に女性が使用するが、男性も使うことができる。…被害は甚大だが。
ここ一年、踊り子として生活してきたサクラはお色気技を極めていた。というか勝手に極められていた。
新しいことを覚えると、ひとに見せたくなるのが性である。サクラはずっと使う機会がないか伺っていたのだ。
そしていい鴨があらわれてくれた、というわけだ。
サクラに気合いが入るのは仕方がなかった。そしてその気合に比例するように全力で技を使ったのはいけなかった。

「シンドバッド王よ、市街地の再区画について…」

ジャーファルが踏み入った部屋の先には、鼻を押さえているシンドバッドと、あどけなく肢体をさらしたサクラがいた。昼間なのに淫靡な雰囲気がただよっている。
そしてジャーファルを勘違いさせるには十分な状況だった。

 その後、サクラはお色気技をジャーファル命令で使えなくなった。



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