>> めぐりあい て 稲妻主と大介とロココ ライオコット島は本戦出場国の様子に合わせて作られたそれぞれのエリアがある。 イギリスエリアは本国からレンガを運び、作り上げたとだけあって、急にこしらえたものとは思えない美しさがある。イタリアエリアには運河が通っているし、アメリカは古きよきウエスタン調である。 ようするに、ライオコット島でエリアを訪れると、あたかも世界旅行に行ったような気分を味わえるということだ。 とある事情によりライオコット島に滞在中の名前は、旅行ガイド片手に、ライオコット島を散策していた。 よくイナズマジャパンの宿舎に顔を出す名前だが、円堂たちは世界の頂点を争っているのである。過度の干渉は練習に支障を来してしまうと、名前はこっそりと円堂たちを応援することにしたのだ。 ジャパンエリアに出向くことがなくなり、暇を持て余すことになってしまった名前は、ライオコット島を観光することにした。本屋には観光ガイドが山積みにされていたし、名前も他の出場国のエリアは気になっていたからだ。 「え、と。ここどこなんだろう?」 しかし現在名前は迷子だった。ブラジルエリアにいたはずなのだが、賑やかな人波に流されいるうちに、名前は自分の現在地が分からなくなってしまったのである。 困って名前は息を吐く。周りに人はいるものの、異国の人に道を尋ねるのはなんだか気後れしてしまう。 まぁなんとかなる。道は繋がっているのだから、となんてもアバウトな考え方で名前は歩きだした。ちなみにこれは迷子がさらに迷子に陥る最悪のパターンの1つである。 案の定、よく分からないそして人気もない路地裏にたどり着いた名前はそこでようやく歩みを止めた。 周りは日が差さないこともあり暗く、地面が湿った空気は肌にまとわりつくような嫌な感じがある。 さすがに心配になってきた名前はどうしようか、と考えていると、トンと肩を叩かれる。 「どうしたんだお前さん。こんな路地裏に1人でいたら危ないだろう?」 「は、はい!ごめんなさい、道が分からなくなって…」 名前に声をかけたのは、所々薄汚れたオレンジのキャップをかぶり、黒いサングラスをかけた一見怪しい人物だった。が1人ぼっちの状況に不安を感じていた名前にとっては、怪しい人でも救いの神のように見えた。 「大通りはこっちじゃ」 案内してくれるようなので、名前はついていく。しかし、おじさんの厳めしい顔つきはそのままだった。 「なにかついてきておるのぉ…」 「え?」 おじさんの言葉に名前はこっそりと後ろを伺う。確かに誰か後を付けてきているようだ。人通りのない道に自分たち以外の足音が小さく聞こえてくる。 サングラスに隠された瞳が横から覗けた。鋭く眼光を放つおじさん目を、名前はどこか見慣れているような気がした。守るべきものを譲らない意思が宿った瞳。 角を曲がった所でおじさんが急に手を引っ張った。 「走るぞ!」 「うわっあ!…はっはい!」 体制を崩しかけた体をなんとか保ちながら駆け出す。後ろの足音も早くなる。え、本当にあの人たちは後をつけていたのか!? 走りながらおじさんの背中を窺う。名前が変な人に狙われる確率なんてない。円堂守の精神の中に住まわせてもらっていたという特殊な経験を除けば、名前は普通の学生だからだ。 名前の心に巣くう、…一体おじさんは何者なんだろう?という疑問。 走り続けて、やっと大通りにでる。時間で換算すればそんなに走っていないはずなのに、人に追いかけられるという精神的負荷も相まって、息が上がってしまった。 おじさんはちらりとその様子を見て、大丈夫か?と尋ねてきた。大丈夫、ですと返す。少しすれば呼吸も元に戻るだろう。 しかしおじさんは心配顔で私を近くの露天商へ連れ込んだ。 「すまないが連れが人波に酔ったようでの、休ませてくれないか」 「いいですよ。お嬢さん、こちらの椅子に座ってください」 露天商のお兄さんは椅子を貸してくれた。ありがとうございます、と言えばいえいえと爽やかな笑顔を返してくれる。 おじさんはどこかへ電話を掛けた後、私に話しかけてきた。 「お前さん、わしは今からちょいと奴らを引きつけておくから、もう直ぐここにくる子どもと帰るんじゃ」 「え…、おじさんは大丈夫なんですか?」 「もともとわしに用がある奴らじゃからなぁ…じゃあまた縁が会ったら」 おじさんはそのまま露天商を飛び出していってしまう。状況が把握出来ずに呆然と大通りを見ていると、背の高い褐色の肌の男の子が現れた。 「君が師匠が言ってた女の子?」 「師匠って…オレンジのキャップのおじさんのことですか?」 「そーそー!その人が師匠だよ!君を日本エリアまで案内するように言われて来たんだ!じゃあ行こうか!」 笑った男の子に連れられて、露天商を出る。露天商の店員さんに慌ててありがとうございます!と頭を下げた。 男の子は日本人って礼儀正しいんだねと笑った。そのまま歩いていって、日本エリアに向かうバスに乗り込む。 「あ、あの、おじさん…師匠さんは大丈夫なんですか?」 「ん?師匠なら心配しなくても大丈夫だよ!あ。名乗り忘れてたや。ボク、ロココって言うんだ。よろしくね!」 「私は名字名前っていいます」 心配することなんて何もないと言わんばかりの顔でロココくんが大丈夫というものだから、不安が少し和らぐ。 あ、と声を上げたロココくんに首を傾げると、なんでもないよと返される。 そのまま空いている車内で、揺れに傾かれながら私たちはバスに揺られていた。 アメリカエリアを通り過ぎる際、アメリカの代表がグラウンドで練習をする姿が目に入る。ロココくんと私はその風景を流れるように見た。 「師匠はね、サッカーが好きなんだ。とっても、とっても」 唐突に、ロココくんが言う。私もおじさんのことが気にかかっていたから、ロココくんの話を聞く。あのおじさんは、どことなく雰囲気が守に似ていたような気がしたから。 「ボクもサッカーが好きだよ。サッカーはボクを強くしてくれるから。 名前はサッカー好き?」 ロココくんは尋ねてきた。私は迷いなく答える。 「好きだよ。大好き」 今までサッカーで幸せになってこれたことを思い出していく。辛いことがなかったわけじゃないけど、辛かったことも含めても私はサッカーが好きだ。 きっとこの先ずっと、サッカーは私にとって誇りとも言える存在だと思う。 ロココくんは私の言葉にはにかんで、何故か照れた。「仲間もサッカーが好きだけど、当たり前のことになってるから、こうやって面と話す機会がないんだ。ちょっと照れちゃった」と言った。 それから、私とロココくんはサッカー談義をした。最終的にはバスの運転手さんも混ざって話は白熱した。 そうしているとすぐにバスは日本エリアに到着してしまった。 バス停にロココくんと一緒に降りる。 「ここからなら私でも普通に道分かる!ありがとうロココくん!」 「別にお礼言われることじゃないよ。ボクも名前と話せて楽しかったし!」 笑顔でそう言ったロココくん。良い子だなぁと感動してしまう。 「じゃあボクも帰るよ!サッカーの話してたら練習したくなっちゃった!」 「え?バスいっちゃったよ」 どうやって帰るの?と尋ねるとロココくんは不思議そうな顔で「走って!」と答える。 ええ!?と驚く私に、トレーニングだよ!と普通そうにいうロココくん。 普通はバスで40分かかる距離を走っていくとは言わないよ…。と驚くことしか出来ない私。 ロココくんはそんな私をみて笑っているようだった。 「あはは。名前は表情が豊かなんだね!見てて飽きないや。 あ、でも名前は笑ってるのが一番かわいいよ!サッカーのこと好きって言った時の名前の笑顔、ボク好きだな」 親愛の証ね、ってロココくんが相変わらず素敵な顔で言って、私を抱きしめた。 それは一瞬で、直ぐにロココくんは離れた。 「名前、またね!」 ロココくんは手をぶんぶんと振り回して、さっきの言葉通り、バスで通った道を走っていった。 私は急に抱きしめられたことに思考が停止し、半ば呆然としていたがロココくんを見送った。 見送って、ロココくんの姿が見えなくなった頃に私も家路につくために振り返る。 「………名前、今のだれ?」 少し先の歩道に、愕然とした様子の守がいた。手に持っていたのであろう買い出しの荷物が、守の足の横に落ちている。 あ、やばい。これは、なにか守が勘違いをしているようだ。 結局、私は守が納得してくれるまでいきさつを説明することになった。 めぐりあい て 印さん #リクエストありがとうございました! 大介さんの口調が迷子になっていますが、書いていてとても楽しかったです!大介さんとロココ素敵な師弟関係ですよね。 最後になりましが、いつも“夜間信号”へのご訪問、ありがとうございます。 prev//next |