一目惚れだった。
一年のときからずっと見続けていた。ずっと気付かれないように書き続けていた。
楽しそうに笑う姿、風に揺れる金髪、気持ち良さそうにテニスをする姿。全て、書いた。
たが話したことはない、美術室から見える彼をずっと書き続けた。バレたら大変なことになる、でも気付いて欲しかった。自分がずっとこの窓際の特等席をとって君を見ていたことを。

美術室の窓を開ければ、すぐにテニス部のコートが目に入る。スポーツは苦手では無いが、率先してやったことは無かった。だから、最初のうちは静かに眺めていた。ふと派手な金髪が目に入って、追うようにその金髪を見ていた。気付いたら毎日。いつしか、ペンを握って彼を書いていた。最初から、惚れていたんだ。そう気付いたときは、胸が踊った。
1ヶ月経った頃にはスケッチブック一冊を消費していた。自分が執着してこんなに書いたのは初めてだった。捲ると、一枚一枚違う彼の顔。近くで見てみたい。話してみたい。何度も思ったが彼はスケッチブックの向こうの人で、まるでテレビの向こうのアイドルのような存在だった。

絵を描き始めたのは、もうずっと昔のこと。母が、元々絵を描くのが好きで小さい頃から色鉛筆や絵の具を持たされていた。描くのは好きだった、上手な絵を描くと父と母は褒めてくれるし、日に日に上達していく自分の絵を見るのが楽しかった。小学のときから賞は沢山貰った。だが、これといって良いものを描いたという思いではない。中学に入って、良いものばかりを描いているからかもしれないが。

得意な分野は風景画だったが、彼を見始めてから専ら人物画ばかり描いていた。顧問にはバレないようにときたま風景画を描いていたが、窓から見える彼を描きたくて仕方がなかった。
雨の日は憂鬱だった。部活は無くなって窓の外から彼は消えてしまう。そんなときは、スケッチブックを眺めていた。

春夏秋冬。衣替えをする彼や、少し髪が伸びたり短くなったりする姿を見ていると、楽しくて仕方なかった。

中学二年になって、彼の名前が忍足謙也だと言うことが分かった。元々、友達の少ない自分は情報を手に入れるのも難しく、二年のときに配られた広報にテニス部優勝と掲げられた文字の隣に写真と彼の名前があったから知ることができた。
これからは彼の作品を描くごとに日付の隣に"謙也"と名前を入れよう。モデルの名前を入れるくらい構わないだろう。スケッチブックがまた晴れやかになる。心踊る衝動を抑えながら過ごす毎日は辛かったが、放課後は相変わらず楽しかった。

中学三年に上がったとき、転機が訪れた。謙也と一緒のクラスになることが出来た。夢かと思った。いつも窓越しに見ている謙也が目の前にいる。スケッチブックの中の人が。放課後だけじゃない、毎時間だ。こんなに嬉しいことはない。
同じクラスになることが出来たのだから話しかけても大丈夫だろうか。変に思われないだろうか。何を話したらいいだろうか。ちゃんと答えてくれるだろうか。俺は喋れるのだろうか。
焦りと不安と困惑が入り交じる。だが、せっかくチャンスが来たのだから話しかけないと。焦りも不安も投げ棄てて話しかけた。

「絵のモデルやってくれませんか?」
「…へ?」

何をしているんだ俺は。
話したことも会ったこともない相手に、なに突拍子のないことを言っているんだ。誰だって戸惑うに決まってる。現に、謙也は目を泳がせて戸惑っている。

「え…っと、なんで俺?」
「忍足くんがええから」
「はあ…わかりました」

まさか承諾を得られるとは思わなかった。少し困惑気味に答えられたが、そんなことに気を使っている余裕は無かった。本当に夢のようで、ずっとずっと見続けた窓越しの彼を間近で描くことが出来る日が来るなんて。せっかくだからキャンバスを買おう。キャンバスいっぱいに彼の姿を書こう。じっくり時間を掛けて描こう。でも、テニスに支障があってはいけないから週に何回か、そして30分程度のお願いにしよう。あと、沢山質問をしよう。毎日、いつか話すことがあれば聞こうとずっと考えていた質問は山ほどある。これからの放課後が天国のようだ。

高鳴る鼓動は止むことがなかった。
























もしかしたら続きかくかもしれません。
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