「白石くん誕生日おめでとう!」

誕生日というものは苦手だった。
いつも以上にちやほやされ、いつも以上に絡まれて。中学に入ってからが特に酷くなった気がする。祝って貰えるのは嬉しいが、いつも以上に謙也といれなくなるのが何よりの欠点。
いつもは隣に居て当然な存在だが、誕生日となると皆が群がって来る為、変な所で空気を読んで謙也は群れの大群から身を引き、いつも遠くにいることが多い。その為、その日の部活終わりにしか喋れなかった去年の誕生日は人生最大の黒歴史と呼んでもいいだろう。今年はクラスこそ一緒なのだからチャンスはある筈だ。
誕生日だからこそ、謙也には隣に居て欲しい。好きな人と一緒に居たいと思うのはわがままなのだろうか。

登校してすぐに群がる大群をやんわりと断りながら抜けようとするが、一筋縄ではいかないのは最初っから分かっていた。

「白石くんこれ受け取って!」
「白石おめでとう!」
「白石!!」

どこからか、好きだの愛してるだの悲鳴混じりの告白や女子特有のどろどろした雰囲気が流れている。
ここまでくるとさすがに怖い。これが世にいう"勝てる気がしない"というやつだろうか。

玄関は目の前に見えてるのに…。

どこか遠くを見つめながら麻痺した頭で考えていると、突然手首を力一杯引っ張られ体が左にガクンと傾いた。誰かと思い、目線を左手にやるとそこに繋がれているのは女子の可愛らしいてとかではなく完全な男の手だった。そのまま、群れを無理矢理抜けるように引っ張られ、あれよあれよという間にどこかへ連れていかれていた。人混みのせいで引っ張る相手がわからなかったが、人混みを抜けた瞬間に目に入った金髪を見て思わず笑みが零れた。よく見れば耳まで真っ赤だ。今は指摘しないで一生懸命腕を引っ張りながら走る男に身を任せよう。
数分走らされて着いた場所は男子テニス部の部室だった。男はキョロキョロと辺りを見回して女子がいないのを確認すると、直ぐ様部室に引き込んだ。
入った瞬間にドンッと胸に衝撃が走った。顔も耳も真っ赤にして抱きつく姿は愛らしいものだった。

「なんや、謙也大胆やな」
「うっさい。誰のせいでこないなことしたと思ってんねん…」

わからない、と茶化すように笑ってやると、ど阿呆と一言返された。一瞬の沈黙のあと謙也は恥ずかしそうに口を開いた。

「誕生日…おめでとう。すまん、いきなりこないなことして。でも俺、白石の誕生日今年はちゃんと祝いたかったし…白石とおりたかったし」

最後の方は消え入りそうな声でボソボソと呟いたが、至近距離にいるためバッチリ耳に入っていた。

「俺、めっちゃうれしい…今多分世界一幸せや」
「ほんま…?」
「ほんま」

可愛い。めっちゃ可愛い。
謙也の腰に手を回してるのは当たり前のこと、肩に頭をおいて謙也の匂いを嗅ぐように甘えた。擽ったそうに身を捩る姿がこれまた可愛らしくて、首筋にキスを一つ落とす。二人っきりの室内に響くリップ音に少し気分が高まった。

「あ、せや誕生日プレゼント…」
「後でええ」
「え?」
「先に謙也貰うことに決めたから」

腰に回した手を服の中に忍ばせると、顔を真っ赤にさせて身を引いた。

「そのプレゼントは…用意しとらん」
「目の前にあるやん」
「ほんま…アカンって、学校始まるで…っ!」
「ほな、サボりが許される面白い理由考えとってな」

「白石…」
「堪忍な」

謝る声は申し訳ないどころかどこか弾む。いつの間にか朝の憂鬱な気持ちもどこかに吹っ飛んでいた。
誕生日が苦手というのは撤回しよう。毎日が誕生日だったらいいのに。

現金なやつだと笑ってくれ。







Happy Birthday 白石!



















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