一日ぶりに来た学校は何日ぶりかに来るような感覚だった。
緊張はした。足が自分のものでないくらい震える。視線が泳いで視界が定まらない。バックを掴む手が気づいたらと汗ばんでいる。息が詰まるような思いだった。逃げたしたかった。
玄関でこの調子だ。教室に入ったら自分は死んでしまうのではないだろうか。
シューズに足を入れると、ズンと重くなったような錯覚に陥る。気はどんどん重くなる。

「謙也、」

いきなり名前を呼ばれビクリと大袈裟に肩を揺らしてしまう。恐る恐る振り返ると、ニコニコと機嫌が良さそうな男の姿が目に入った。思わず頬が緩んでしまう。

「おはよう、千歳」
「おはよう。今日は気分よか?」
「うん、だいぶ良うなったわ」

よかよか、と千歳は柔らかく笑った。千歳は教室まで送ってくれると言ってくれたが、二日前に千歳も俺のせいでクラスの連中にあまり良く思われていない。千歳には迷惑をかけたく無かったので、丁重に断った。しかし、千歳はどこか煮え切らないようなので昼飯だけは一緒に食べると約束した。

自分から離れようと切り出したのにも関わらず、千歳が居なくなった途端に、また先ほどの緊張が戻ってきた。進む足はどこか重たい。目線はどんどん下がっていく。一歩進むごとにばくばくと心臓の音も比例して大きくなる。気づいたら教室のドアの前まで着いていた。
教室に入ったら、また苛めは始まる。きっと入った瞬間にからかうに決まってる。教室のすりガラスから見える人影を見て大きく溜め息を吐いた。

──今ならまだ逃げれる

右足を半歩下げた瞬間、ドンと人にぶつかった。謝ろうと振り向いたとき思考がフリーズした。

「……白石」

自分はきっと今情けない顔をしているだろう。心臓が大きく跳ねる。逃げたい。逃げたい。逃げたい。

半歩下がった足をまた別の方向へ下げ、踵を返そうとした瞬間手首をかなりの強さで握りしめられた。そのまま、掴まれた手首は離されることなくズルズルと引っ張られる。抵抗しようにも力の差が有りすぎてできない。今来たばかりの廊下を戻っていく。靴箱に連れていかれ、自分の靴を取り出され無言で履けと言わんばかりに乱暴に落とされる。どこへ行くのか、と聞いても返事は返ってこない。異様な雰囲気の2人に視線は集まる。

逃げたい。

引っ張られる最中ずっと考えていた。

















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