その日は、いつもと変わらない"平凡な日々"だった。そう、いつもと一緒。いつも通り学校に登校して、いつも通り授業を受けて、いつも通り部活をしていた。
ただ、その日は後輩の金太郎がボールを裏山にかっ飛ばしただけ。そう、ただそれだけのことだった。

まさかこんなことになるなんて…



球探しに出動させられたのは、俺と光とユウジの三人。ボールをかっ飛ばした本人は迷子になってはいけないからとコートに残された。
俺も方向感覚は長けてはいないので、裏山を適当に見て回ったがテニスボールらしき物の影は見当たらない。辺りを一周見回すがやはり見当たらなくて、帰ろうかと歩を進めたときだった。草が生い茂る中に一本の道を見つけた。

「こんなとこに道あったけ…?」

一瞬、疑問に思ったが草木を掻き分けその道をずんずんと進んで行った。別に、このくらいの距離を迷うほど自分はバカではない、となんとなく理由を付けて歩を進めた。本当は、ただ好奇心が沸いただけ。
いっときすると、小さな祠が見えた。俺は、そこで足を止めてジロジロとそれを観察する。どこにでも有りそうな小さな祠だが、なぜかそれは興味を持たせるものがあった。それに不思議に思い、誘われるように祠に手をやる。
その後は、ほぼ無意識で何も考えていなかった。祠の入り口にでかでかと貼ってある御札をペリッと剥がしていた。その行動に気付いたのは、それをしてしまった後。

「え?あれ、なんしとん俺」

慌てて貼り戻そうとするが、それは叶わなかった。光がその祠から溢れでてきた。一瞬、何事かと思い目を疑うが勢いよく放出された光に思わず目を瞑ってしまう。光は止んだのかと、恐る恐る目を開けるとそこにはなぜか人が立っていた。黒い着物を身に纏った銀髪の青年が、こちらを見てニコリと笑った。

「おおきに」
「え?…なにが?」

何に対してのお礼だったのか理解できず聞き返すと、男は嬉しそうに笑って答えた。

「封印解いてくれたやろ?」

それ、と男は御札を指差す。封印。一体何のことか分からず御札と男を交互に見つめる。

「昔は祟り神とか言われとっ…多分今もやないかな。うん、せやな。とりあえずよろしゅう」

能天気そうに男は自己紹介を始めた。俺は、脳内で整理することで精一杯で、ただただ目の前で笑う男を凝視していた。
わかったことは、封印、祠、御札、祟り神。
なんだか関わってはいけないことに足を突っ込んでしまったような気がして冷や汗がだらだらと流れた。

「…とととりあえず、帰って下さい」

男の背を祠へ向けて押し返すと、クスリと笑われた。

「とりあえず君が落ち着きや。それから、催眠術とかに簡単に掛かるタイプやろ?」
「え?…わからへんってそんなん…」
「まあ、そっちの方が助かるんやけどな」

俺としては。と語尾に少し含みのある言葉を付け加えてにこりとこれまた綺麗に笑って見せた。

(なんやこいつ…)

未だ半信半疑にその男の様子を観察するが、どこか掴み所がないその態度や行動に、ますます困惑する一方だった。それに、この自称祟り神は何をそんなに嬉しそうにしているのだろうか。

「え…と…祟り神さん?」
「ん?」
「名前は…」
「名前かぁ…うん、名前な名前…」

少し口ごもった感じだったが、一時してから、あ、と手のひらを叩いて此方を見た。

「白石蔵ノ介!」
「白石蔵ノ介…?」

そう、と男はどこか嬉しげに微笑んだ。古風な名前の持ち主だな、と言うのがその名前に対する感想だった。それよりも、なぜ自分の名前を思い出すのに時間を費やしたのか、そちらが気になった。というよりも、自分の名前など思い出すものではないと思うのだが。やはり、この男は読めない。

「ほんまに祟り神なん?」
「正真正銘祟り神や。なんなら誰か呪って」
「いや、ええわ」

笑みを浮かべながら軽い口調で言っていたものだが、どこか信憑性があって変な悪寒が走った。神だとか幽霊だとか、そんなオカルトなものを信じる気など更々無いがなぜかこの男が人間では無い、違う生き物だと言うことに薄々勘づいてきていた。

「あ、せやせや」

男がニコニコと上機嫌そうに笑いながら、言葉を続けた。

「な、謙也」
「…なん?」
「いきなりで悪いんやけど謙也に憑いとってもええ?」
「え?祟られんの俺?」
「ちゃうわ、ただ憑いとくだけ。むしろ守護霊や!あ、謙也が呪い殺して欲しい相手がおるなら俺が呪い殺したるわ」

笑顔でさらりと恐ろしいことを言うので、ぶんぶんと首を全力で横に振って拒否をした。そんな俺をどこか微笑ましげに男は見ていた。

「変わらんなぁ…」

懐かしむような口調に、え?と返事を返すと、なんもないと眉尻を下げて返事が返ってきた。

「ま、返事は明日でもええわ。さすがに久々の外は疲れるわ…ちょい今日は寝るから、また明日来てや」
「寝るって外やで、ここ」
「ん、ああ…まあ大丈夫。ほなおやすみ」

男はそう言ってすぐに瞳を閉じて眠ってしまった。
大丈夫、と言ったのだから多分大丈夫だろうと、どこか不安だったがそのままそこを後にした。


確信は無いが、多分俺は明日もあそこに足を運んでしまうのだろう。なぜだかわからないが、そんな気がした。
それに男が呟いたあの言葉も気になる。

──変わらんなぁ

初対面の筈なのに、前々から俺を知っているようなあの口振り。それに憑くとか、呪うとか。

──いきなりで悪いんやけど謙也に憑いとってもええ?

今日の会話を思いだしてフとあることが引っ掛かった。

──謙也

今日、男は俺の名を呼んだ。

「俺、名前教えたっけ?」

振り返ると、あの道は消えていた。








end








花谷様へ贈ります。
遅くなってしまい、申し訳ございません!
祟り神×人間…このような感じでよろしいでしょうか?すいません、中途半端な終わり方をして!!思い付いたら、また続きを書かせてください><
リクエストありがとうございました!!
花谷様のみお持ち帰り可能です!

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