3月16日午後11時50分

白石蔵ノ介は柄にも無く落ち着きがなかった。携帯を開きディスプレイと睨み合いすぐに閉じる。それを何度も何度も繰り返す。完璧、聖書、無駄の無い男と称賛されている彼だが、今の彼を見たら誰もそんなことは思わないだろう。寧ろ真逆を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、白石もしたくてこんな無駄な動きをしている訳ではない。彼が何度も見ているのはディスプレイに浮かぶ『忍足謙也』という文字と着信番号。白石は明日誕生日を迎える謙也にバースデーコールをしようと意気込んでいたのだ。10分後には彼の誕生日3月17日になる。なぜ10分も前から意気込んでいるのか、そしてなぜ友人の謙也に対するバースデーコールにこんなにも緊張をしているのか、それは白石のある1つの計画が関わっていた。

白石は謙也が好きだった。
入学式の日に隣に座った金髪が目に写って綺麗だなと見惚れていると、その本人がぐるりと振り返り話し掛けてくれた。

綺麗な髪やな。

金髪の頭を輝かせ綺麗に笑った。
白石はあっさりと恋に落ちた。今思えば社交辞令のようなものだったのかも知れないと考えるが、彼はそんのことはお構い無しにズブズブと謙也にハマって行った。3年間の片想い。3年間の間にやっと親友まで登り詰め、理性を総動員させて今まで我慢をしてきた。しかし、この謙也の誕生日を気に白石は告白をする事を決めた。来月からは違う高校に通ってしまう白石と謙也、3年間べったりと謙也に引っ付いていた白石にとっては地獄のような日々続くであろう。それなら一層のこと謙也に告白してしまえばいいのではないだろうか。どこを一巡して思ったのかは分からないが、白石には今まで出来なかった告白というものを実行することを決意した。それが実行されるのは3月16日から17日の日付の変わり目。なぜそこを狙ったのかと言うと、同じ学校のモノマネ王子が「ロマンチックやん」と呟いたのが始まりである。なんともあっさりと決まるもので。そして、白石はその状況に立たされている。机の上には『ドキッ!白石蔵ノ介の告白HappyBirthday大作戦!in白石家』と几帳面な字で書かれた紙が置いてある。その題名はどうなのだろうか、とツッコミを入れたいが白石にとっては本気で考え出されたものである。現に、紙には端から端までびっしりと今回の告白についてのことが書いてある。こういうところは無駄がない。
白石はスーハースーハーと何度も深呼吸をし、いざ携帯のコールボタンへと手を掛ける。が、やはり緊張のあまり固まってしまい親指がびくともしない。左手の親指1つ押せば謙也に繋がる。白石は何度も何度も挑戦しようとするが、親指が緊張で動かない。ぐだぐだしている内に気がつけば、10分前から1分前へとなっていた。

「どないしよ…」

吐き出された言葉はなんとも情けないものだった。これが、強豪と呼ばれるテニス部の部長なのだからなんとも言えないものである。そして時刻は0時へと…白石はやっぱり無理なのだろうか、と肩を落とし落胆した。瞬間、プルルルと初期設定の電子音が流れた。間違いなく白石の携帯だ。ビクリと肩を震わし携帯を開くとディスプレイに浮かぶのは『忍足謙也』の文字。白石は慌ててしまい一度携帯を床に落としてしまった。落ちても鳴りやまない電子音を聞いて夢では無いことを確認した。震える手を伸ばし携帯を耳に当てる。

「もしもし…」
『もしもし?白石!』
「お、おん…」
『すまん、寝よったか?』
「いや起きとった」

電話の向こうから聞こえるのは謙也の声だった。白石はドクドクと高鳴る心臓を抑えて声を振り絞るように話した。

「た、誕生日…おめでとう」
『っ…おおきに』
「電話…どないしたん?」
『え、あー…用ちゅーわけやないんやけどな、あんな白石…』

心なしか謙也の声も震えているようだった。白石には及ばないが。白石は自分が緊張し過ぎて謙也の震えに全く気づくことができず、予想外の出来事に頭が付いていかずただただ返ってくる返答を待つだけだった。

『俺ら、別の高校に行くやろ…』
「おん」
『ほんまはな…ほんまは俺、白石と一緒の高校行きたかってん』
「……」

初耳だった。白石はその言葉だけで未練無く成仏できるくらいの喜びを感じた。神様はいたのか、ありがたい。と聖書と呼ばれる男は心の中で天を仰いだ。

『ほんでな…今日、白石との最後の誕生日になるかもしれんな、って思って…言っときたいことがあるんやけど……白石?』
「…え、ああほんで?」

白石は現実に呼び戻され、電話口へと意識を戻した。心なしか先程よりも緊張が溶けてきた気がするな、と内心に余裕ができた白石はこれなら行けるかもしれない、と何度目かも分からないが大きく意気込んだ。

『あんな…俺…白石が好きやねん』
「へぇ…えぇ!!?」

謙也は今なんと言った。白石は何度も何度も謙也が言ったことを心の中で復唱した。

白石が好きやねん

時間が止まったかとさえ錯覚した。ああ、本当にこれは夢なんじゃないんだろうか。なにがなんでもうまく行きすぎている。白石はそう思い自らの右頬を勢いよくつねった。当然、右頬に鋭い痛みが走った。

「いたい…」
『なんて?』
「え、あ、いやなんもない!…そんなことより謙也、あああの俺が好きっちゅーんは…あのその恋愛感情とかそんなんでか…?」
『せ、せや』
「謙也!俺も…おお俺も」
『なん?』


「俺も好きや!!」

近所迷惑だと妹にどやされるかもしれない。だが今は関係ない。だって謙也と両想いになれたんだ。幸せ過ぎて死んでしまうのでは無いだろうか。ああ、それでもいい。これ以上の幸せはない。白石は舞い上がっていた。一度溢れたものは止まらず、先程から考えれないほど白石の口から次から次へと言葉が流れ出していた。

「中一んときからずっとずっと好きやった。同じテニス部に入るっちゅーことがわかったときは、ほんま嬉しかった!ほんで中一の五月から一緒に登下校するようなっていっつも部活と登下校が楽しみやった。中二に上がったときに謙也もレギュラー入りして御祝いに二人で食べに行ったたこ焼き屋も覚えとる。謙也が自分のにだけタコが入っとらんで店主にケチつけに行ったんも覚えとる。中三あがって同じクラスになれたときは夢かと思ったわ。授業も昼食も放課後も全部謙也を占領しとるみたいで、毎時間が幸せやった。謙也とおれて、謙也と同じ時間を過ごせて、俺は幸せやった。」

生まれて来てくれてありがとう!















Happy Birthday KENYA!












誕生日小説なのに謙也の出番が少なくてすみません。うちの白石と謙也はヘタレと男前です(^q^)おめでとう謙也!



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