人には言えない秘密がある

誰にでも当てはまることだ

それがいずれバレてしまうと分かっていても

人は秘密を作る



もちろん、俺もだ






SECRET










豪華な食事、そして華美なドレスに包まれ気持ち悪いほどキツい香水を付けた女に、高級そうなスーツを着て口を達者に動かす男。
どれも見飽きたものだ。かという俺もスーツを着て、言い慣れた社交辞令を話し、本心とは裏腹の笑顔を振り撒いているのだが。



「こちらが、跡継ぎ息子の蔵ノ介です。蔵ノ介、挨拶しなさい」
「はい。お初にお目にかかります。白石蔵ノ介と申します。今日は素敵なパーティーに御招待くださりありがとうございます」

目の前の小太りの男に軽く頭を下げる。この男は大企業の社長で、父がこの人には媚を売れだのゴマを擦れだのと、気分が悪くなるほど言い聞かされた。

「君が蔵ノ介くんか、噂に聞いた通りの良い男だな。どうかね、うちの娘と」

小太りの男は隣にちょこんと立つ可愛らしい女性を軽く前に押した。

「はじめまして」
「は、はじめまして」

うわべだけの笑顔を贈ると、女性は頬を赤く染めて、少し上がり気味に声を発した。こんな笑顔に騙されるなんて馬鹿な女だと、どこか他人事のように事を見つめていた。その後は、女性と何分か話し、御手洗いと称して話を中断した。




(めんどいなぁ…)

洗面所の鏡に写る自分の顔を見て、大きく息を吐いた。
早くこんな所から出たい。こんな、操り人形みたいな生活はもううんざりだ。自由が欲しい。こんな服も、料理も金もいらない。

一層のこと逃げてしまおうか。

そんなことを考えて、思わず吹き出してしまった。
無理なのは重々承知だ。父はSPでもなんでも送り込んで探し出すだろう。俺は、父親に縛り付けられている。自由なんて馬鹿げた幻想なんてとっくの昔に捨てたはずなのに。


誰もいない部屋に乾いた笑い声が響いた。







fin









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