「ゆーしは…?」

小さな少年は、不安げに瞳を揺らした。その姿に、ハァハァと息を切らして見つめているのは、やはり白石蔵ノ介。
謙也と名乗った少年は、どうやら本人で間違いではないようだ。白石はそれを見抜いていた。主に匂いで。
いつも変態だと罵られる彼は、本気を出せばこんなこともできる。好きな相手の匂いがわからない方がおかしい、と彼はどや顔で言い切り、謙也に気持ち悪いと一発ストレートを入れられたのは3日前の話。
あともう一つ見破った点があるとするなら、この全世界の…いや全宇宙の中でこんなに可愛い子供は謙也しかいない、と確信していたからだ。
白石は、こんないたいけな少年を見て、厭らしい脳を存分に働かせていた。

もし、このちびの謙也を俺用謙也に調教してしまえば、いつも殴られるこてないし、生ゴミを見つめるような目で見られることもないだろう。それに、あんなことやこんなことやそんなことまで出来てしまう。
白石は鼻血を垂らしながら考えた。その厭らしい視線を怯える小さな少年に向けるとビクリと体が震えた。

「謙也…ハァハァ…」
「や…」
「お兄ちゃんと一緒にええことしようか…?」
「ゆ…ゆゆーし…!ゆーし!!」

小さな謙也は涙を流しながら、必死に従兄弟の名を呼んだ。そして、この人は危険だと察知した。

「ゆーしいいい!ゆーしいい…!!」
「泣きよる姿もかわええ…」

白石が小さな謙也に手を出そうとしたときだった。謙也は顔をパアッと明るくさせた。同時に、白石がぐえっとカエルが踏みしゃがれたような声で唸った。

「なんやねん、この変態…」
「ゆーし!!!」

小さな体は侑士に踏みしゃがれた変態を華麗に横切って、子犬のように駆け寄る。それに気づいた侑士はそっと抱き上げる。

「なんでちいさなっとんねん」
「ゆーし!」
「話通じんし…てかこいつはなんや、謙也?」
「しらない!」

嬉しそうにギュウッと抱きつく。それを恨めしそうに見ているのは、先ほど謙也の貞操を狙っていた変態。

「邪魔すんなや…」
「あほ、ガキを襲いよる奴見たら誰かて止めるやろ」
「ちゃうわ!俺はこれからの謙也との明るい未来を作る為に」
「あーもうええわ」
「…ちゅーかどうやって来たんや」
「うちんとこには常識はずれの跡部がおるからな」

あ、そう。と白石は不満げな表情を浮かべ答えた。侑士は、はぁ、と大きく溜め息を吐いて、変わり果てた従兄弟を見る。事の重大さに気づいていない謙也は、助けに来てくれた侑士に嬉しそうに抱きついていた。

「…今日の朝謙也に電話通じんし、翔太に電話したら、今日兄ちゃん見てない言うし、どないしたんかと思ってきたら、これやし…どないやねん」

ドアホ、と謙也の額を軽く突くと子供特有の無邪気な笑顔で笑った。
さて、どうしたものかと、侑士は考えた。早いとこ自分も学校に帰らなければならない。しかしこのまま、目の前でふてくされてる白石と一緒に居させるのは100%危ない。かと言って謙也をここに置いていく訳にもいかない。

「とりあえず…四天宝寺に置いとこか」

人任せになってしまうが、これが一番安全な策だろうと侑士は考えた。テニス部の面子(白石を除く)に任せて置けば多分大丈夫な筈だ。

「謙也、ちょっと散歩行こか」
「行くー!!!」

元気に返事を返す謙也に、ポーカーフェイスで有名な侑士が優しく微笑み返す。










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