白石は優しい。
老若男女問わず優しい。そこが白石の長所でもあり、俺もそこが好きな訳なんやけど、ちょっと、いやほんとちょっとだけ、ヤキモチというか、嫉妬というか、そんなに優しくしたらまた女の子に惚れらるんちゃうかとか、もしかしたらその女の子が白石の好みなんやないかとか、若干…いや、かなり不安な訳で、今日もまた優しく手助けをしている恋人を遠くから隠れて見つめていた。

「手伝おか?」
「えっ白石くん」
「女の子1人で持つ量とちゃうやろ」
「ありがとう…」

ほらほら、見てみい。女子は頬を赤らめて白石を見つめよる。ホの字やん。ぞっこんラブやん。今は死語がどうとかどうでもええわ。とにかく、無差別に優しすぎて鈍感な白石をどないして止めればええねん。

「とりあえず…これストーカーとちゃうんか」
「ど阿呆、なんで付き合っとるやつ見るだけでストーカーやねん。ちゅーかお前の方がストーカーやろ」
「ストーカーちゃうわ!優しく小春を見守っとるだけや!!」
「どこが優しくやねん!辞書でストーカーって調べてこいや、絶対お前の名前載っとるで!」
「何やっとるんスか先輩ら…」

ヒートアップした俺らの声とは真逆の冷めきった生意気そうな声が聞こえて顔を上げると、やはり冷めきった目をした後輩が携帯片手に此方を見下ろしていた。

「財前やないか、どないしたん」
「いやいやそれ俺の台詞っすわ、なんしとんですか」
「謙也のストーカーごっこ」
「ちゃうわ!」


□□□


「つまり、部長が女の子に優しくするんが気に食わんっちゅー話でええんですね」
「いや別にそない気に食わんとかそういう話やのうて…ちょっと優しすぎるんやないかって…」
「うじうじせんといてください、気持ち悪い」

なるほどこいつはトドメを刺しに来たんか。悩む俺を尻目にめんどくさそうな対応をする後輩を睨み付けると、倍の眼力で睨み返されておずおずとユウジの後ろに隠れ込んだ。

「とりあえず本人言うたらええんとちゃいます?」
「俺も何回もそれ言うとるんやけど「いやっ…」とか「でもっ…」とか…どこの乙女やっちゅーねん!!!」
「そないな言い方しとらんわ!!」
「しとるわ!!ほんまうじうじうじうじ…せやから女子にヘタレ言われとんのや!!!」

ここが廊下ということも忘れて息を荒げていると、生徒からの視線が集まりだし、「なんやまたテニス部か!」だの「ええぞ!もっとやれ!」だの「ユウジと謙也なんしてん?」だの野次が聞こえて、聞こえて…

「白石!?」
「なんや化けもんにあったみたいな顔して」
「あれ、お前、職員室」
「用事なら終わったで」

どのくらいユウジと口論していたのか、と今さらになって廊下筒抜けの現状に恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「で、なんしよったん?」
「あ、いやー…えっと、なあユウジ?」
「おまっえっと、今度、ライブでやるネタを…」
「小春とは組まんの?」
「小春…あー今度は小春忙しいいうてたし、なあ財前?」
「知らんっすわ。あ、ちなみにこの人ら部長の後つけとりました」

先輩からのパスをオウンゴールするような後輩だということを思いだし、ユウジはパスする相手を間違えたと頭を抱えた。

「ほお〜ええ趣味持っとるやないか二人とも」
「いや俺は関係ないで!謙也が付いてこいゆうから嫌々ついってっただけで」

ホンマやって!と声を荒げるユウジをみて、ブルータス、お前もか。という台詞が俺の頭を華麗に通りすぎていった。

「謙也?」
「いや、えと…あ、今日天気ええなあ!絶好のテニス日よ」
「謙也」

低めの声で威圧されてしまえば、黙ってしまうのが当たり前のことで、別に自分がビビりとかそんなんじゃなくて──とりあえず怖い。

「なんで、謙也?」
「白石が…から……」
「え?」
「せやから白石が…しいから…」
「俺がなんて?聞こえへん、はっきり言うてや」
「せやから!お前が!優しいから!俺が!不安!!」

半場ヤケになって出された台詞のボリュームのでかさに白石は一瞬目を見開いたが、その後はなんとなく納得したのか若干頬を染めて、ほうか、と小さく呟いた。

「一応言っとくけど、俺が、一番優しゅうしとんのは謙也やから」
「ほ、ほんまか?」
「ほんまほんま、信じてくれるな?」

な?とそんな綺麗な顔立ちしたイケメンに言われれば、首を縦に振ることしかできず、さっきまでの不安感など何処かに飛んで言ってしまった。
しかし、そんな空気をぶち破るようにヒューヒューと聞こえてきて周りを見渡すと野次馬だらけで、こんだけの人が聞いていたのかと思うと羞恥でぶっ倒れそうになった。

「これネタや!ネタ!!テニス部のモーホーネタを引き継いだネタ!!」

ユウジが慌ててフォローに入ったお陰で「なんやネタか」と野次馬がぞろぞろと帰っていったが、1ヶ月の間、謙也絶叫告白ネタが四天宝寺でプチブレークすることに俺はまだ気づかなかった。そして気づきたくもなかった。














リクエスト消化遅くなって申し訳ございません!
女の子に優しい白石に嫉妬する謙也、でした!
謙也は無意識に声がでかくなっていくタイプかなと思って書きました。
素敵なリクエストありがとうございました^▽^


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