「明日から来んでええよ」

キャンバスを片付けながら俺に向けた一言に、思わずへ?と間の抜けた声を漏らしてしまう。今日も、いつも通りにモデルをして話していたのに、いきなりの解雇宣言にはさすがに驚いた。何か悪いことを言ったのだろうか、嫌な予感ばかりが頭を過る。白石を見ると、あっ、と何かを付け足すように語りかけた。

「えっと、全国大会近いやろ?せやから、俺よりテニスに時間をあげた方がええんやないかな思って」
「…あ、うん。せやな。」
「頑張ってな、試合」

優しく微笑まれ、コクリと頷く。テニスに熱中できて嬉しい筈なのに、一緒に居たいと思ってしまうのは、なんでだろうか。
その日は、モヤモヤした気持ちのまま帰宅した。



「ちょっと聞いてもええか?」
『なんやねん、改まって。気持ち悪い』
「うっさいわ、ハゲ。あんな…」

侑士に全て話した。白石蔵ノ介のこと、白石との時間のこと、白石をもっと知りたい自分のこと、そしてこのモヤモヤした気持ち。
全てを言い終わると、少し気分が楽になった気がした。まだ、友達の誰一人にもこんなに白石のことを話したことはない。
それを黙って聞いていた侑士が、何秒か間を開いてから口を開いた。

「ま、それお前が相手のこと好きなんやろ」

侑士の返答に思わず硬直する。誰が、誰を、なぜ。

「…は?」
「いや、せやから謙也がソイツのこと好いとるんとちゃうかって」
「す、すす好きとか…ありえへん!俺、白石とは友達やし!相手男やし!俺男やし!」
「いや、知っとるわ」

どこまでも冷静な侑士は、淡々と答えを返してくる。一方俺は、侑士から叩きつけられた言葉にあたふたしていた。

「ま、今度会ったときでも確かめたらええんとちゃうか?」
「ゆーし…」
「頑張れ、ほな」

ぷつん…ツーツーと会話はそこで終了した。

モヤモヤした気持ちは一向に晴れる気がしない。






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