父さんが10歳の誕生日に人形を買ってきてくれた。
金持ちの間で流行っていた人形、身の回りのことから家事もこなして娯楽にも付き合ってくれるという便利なものだった。別に欲しいと言ったことも無かったし、欲しいと思ったことがなかった。
しかし、そんな思いを忘れさせるほどの衝撃を父さんは連れて帰ってきたのだ。
父さんの隣を歩いてたのは俺と同じ年齢くらいの男の子。
金色の髪が光に反射してキラキラと輝いて綺麗で、ややつり上がった大きな瞳は可愛らしくて、思わず見惚れてしまった。

「はじめまして」

人形は、にこり、と綺麗に笑った。
まるで生きているかのようなその仕草に、ドキリと心臓が跳ねた。
いや、あのときは少年に驚いて心臓が跳ねたのではなく、多分あれが恋に落ちるというやつだったのだろう。

「この子は新型の人形や。どや、人間みたいやろ?なんや最高傑作いうて騒いどったわ」

父さんが頭をくしゃりと撫でると目を細めて気持ち良さそうに口を緩ませた。

「一定の年齢まで成長するらしいで。どないなっとんのやろうな」

人間と同じく年齢を重ねていく人形など聞いたこともなく、目の前の少年に蔵ノ介は益々興味を持った。

「まあ余程のことがない限り壊れんらしいから大事するんやで」

父に背中を軽く押された少年は一歩、二歩、と蔵ノ介の近ずくと歩を止め「よろしくお願いいたします」と頭を下げた。

「蔵ノ介の言うことなんでも聞くで。好きにしい」
「は、はい!なあ、君、名前は??」
「『謙也』です」
「よ、よろしゅう、謙也」


それが、一生連れ添うことになる人形との出会いだった。




fin



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