初恋の再来



昔、近所におにいちゃんがいた。
学年は同じだけど、おにいちゃんは4月生まれで私は3月生まれだったから、ほぼ1歳違う。
それに背が高くて、性格もしっかりしていたから、おにいちゃん、と呼んでいた。

私は優しいおにいちゃんが大好きで、べったりだった。
だからおにいちゃんが少し遠くに引っ越すことになったとき、私は泣いて嫌がった。
電車で30分ほどの距離だから、行こうと思えば簡単だったとはいえ、子どもだったからもう二度と会えないと思ったのだ。

「大丈夫。また会えるよ」

引っ越す当日、おにいちゃんは少し困ったような笑い顔で、泣いている私に頭を撫でてくれた。

「…ほんとう?」
「本当。だから、笑って見送ってくれるとうれしいな。りか」

おにいちゃんがそう言ったから、私は涙を止めて、笑った。
変な顔になっていただろうけど、おにいちゃんも笑ってくれたから、嬉しかった。

優しくて大好きなおにいちゃん。
私の初恋は誰かと聞かれたら、間違いなくおにいちゃんだ。



それから10年が経ち、私は今日、高校に入学した。

クラスが書かれたプリントをみて、教室に向かう。
教室にはもう人がいて、楽しそうに話している人たちもいる。

「ごめん、通っていい?」

入り口付近で自分の席を探していた私に、男の子が言った。

「わ、あ、ごめんなさい」

私が扉から離れると、男の子はふと私の顔をじっとみてきた。

私が150センチしかないから余計にそう感じるのかもしれないけど、それを差し引いたとしても背の高い人だ。
優しそうな顔をしていて、何となく懐かしいと思った。

「…あの、何か」
「間違ってたら悪いんだけど…もしかして里香?」
「え?」
「君、田山里香?」
「そ、そうですけど…」
「やっぱりそうか!俺のこと、覚えてない?村橋巽、昔近所に住んでたんだけど」

忘れちゃったかな、と困ったように笑う。
その顔は、私が彼に最後に会った時の表情にすごく似ていた。

「…おにいちゃん?」
「そうそう、お前俺のことそう呼んでたなあ。懐かしい」
「ほんとに、おにいちゃん?」
「そうだよ。変わってないね、お前は」

おにいちゃんはクスクスと笑う。

入り口近くだとまた邪魔になってしまうから、私は自分の席に向かった。
おにいちゃんもきて、私に話しかけてくれる。

「相変わらずちっちゃいなあ」
「おにいちゃんがおっきいんだよ」
「お前が小さいんだ。…あのさ、おにいちゃんは止めないか?クラスメイトだろ」
「え…じゃあ、村橋くん」
「何でもいいよ、田山さん」

おにいちゃんから名字で呼ばれて、何故か少し残念な気持ちになった。

「どうした?何か変な顔してる」
「…何でもない」

そのとき、担任の先生が入ってきた。
若い男の先生だった。

先生が来たので、自然とみんなは自分の席に向かう。
おにいちゃんは自分の席がわかってなかったので、少しキョロキョロとしていたけど、どうやら自分の席をみつけたようだ。
私はまだ話したいことはたくさんあって、思わず席に向かうおにいちゃんの服の袖を引っ張ってしまった。

「何?」
「あ…あの、あの」
「ん?」
「…やっぱりあとで話す!」

私を不思議そうに見て、わかった、とおにいちゃんは自分の席に行った。

先生の話は、先生の名前と担当教科、それと連絡事項だけであっさりと終わった。
先生が帰っていいと言ったので、みんな帰ろうとしている。

そんな中、おにいちゃんは私の席にやってきた。

「何が言いたかったの?」
「…えっと…あの…」
「うん」
「…村橋くん、私の家族と仲良かったでしょ。たぶん、私のお母さんとか会いたいだろうし、だから」
「家に来てほしいの?」

おにいちゃんの問いに、私は顔が真っ赤になった。
そして少しだけ頷く。

それを見たおにいちゃんは、何故か少しだけ笑った。

「…何で笑うの」
「いや…可愛いなと思って。一生懸命で」
「え」
「誘うの苦手だもんな。よくできました」
「こ、子ども扱いしないで!」

私がそう言うと、おにいちゃんは笑った。
ますます私の顔が赤くなる。

「わかったわかった。また行く」

そう言っておにいちゃんは私の頭を撫でた。
子ども相手にするみたいで少し悔しかったけど、私の頭を撫でてくれる時の顔は、私が大好きだった、あの優しい笑顔。

その顔をみて、私はまた、彼に恋をした。






2011/4/20



   

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