※捏造モブ(風間さんのお父さんの愛人の子供っていう設定)が出てきます。
モブ×風間です。
というかそのモブが主人公です。
風間さんは土方さんルートの風間さんのつもりです。















                              








散ればいいのに。
ごくごく小さく呟いた言葉が聞こえたのか、彼が振り返る。
怒られるのか―彼はこの花をひどく気に入っているようだったから―と思い身を竦める。だが、彼はさも楽しそうに笑んでいた。
生暖かくて気持ちの悪い風が吹く。はらはらと幾枚かの花弁が落ちてきて、彼はそれを慈しむように見ながら、問いかけてきた。
「何故そう思うのだ」
どこか甘さを含んだような低音にどきりとして、足元に目を落とした。茶色く変色した花びらを踏みつける。
―嫌いだから。
声に出さずに唇を動かしただけなのに、彼には聞こえたらしく、白い喉を震わせて笑った。
「桜が、か?」
首を振る。
「そうか」
彼はもう問わなかった。何が、とも。何故、とも。おそらく理解していたのだろう。僕が何を、何故嫌っているのかを。




男の名を、風間千景と言った。
彼から聞いたのではない。もとより知っていたのだ。とはいえ、向こうは此方の名前など知りはしないだろうが。
彼は西国の風間家の頭領で僕は彼と同じ父を持つだけで、風間の姓を名乗ることも許されぬ存在。立場が違うのだ。本妻の子と、妾の子―その上、僕にはたいした力もない。鬼とは名ばかりの非力なものだ。
僕がはじめて彼の姿を見たのは、十年前のことだ。僕と彼との年の差は僅か二つ。けれど、当時の彼はひどく大人びて見えた。
少年と青年の交じり合った、その境界線の危うさが放つ、繊細な色香。
血色をした彼の美しい瞳に僕の姿が映ることはない。
否―あってはならない。
彼の世界に、僕のような不浄で、下等なモノは存在してはいけないのだ。彼の美しい赤に、映ることなど、それ自体が罪なのだ。
それでも。
触れたいと、思ってしまったのだ。
剣を振るその白い腕をとり、眩い金の髪をなで、言葉を吐き出す唇を塞いで。

そうして、抉り取ってしまいたいと。

そうすれば―
『貴様如きに、俺が殺せると思ったのか』
そうすれば、手に入るとでも思ったのかもしれない。そんなこと、あるはずがないのに、だ。

未遂とはいえ、自分を殺そうとした僕を、何故彼が裁かなかったのか、僕にはわからない。やろうと思えば、彼は虫を潰すかのように僕を殺せたはずなのに。
わからないが、僕にわかったのは僕には選択権などないということだった。
僕が生きるも死ぬも彼次第。命の自由も僕にはない。
彼が僕に生きろというのならば僕は生きるしかないし、彼が僕と共に桜を見たいと望むのならば、僕はそれに従うほかない。




風間千景を、僕は憎んでいない。
僕が妾の子として生まれたことに、彼の意志など関係ない。父が僕を遠ざけるようになったのが、本妻との子である彼が生まれたことが理由でも、そこに彼の意志はない。

風間千景を、僕は愛していない。
彼が僕に微笑むのは、彼にとっての僕などいつ消えても良い存在だからだ。赤い瞳が僕をうつすのは、僕如きが彼の世界を変えることなどないからだ。




春は桜をみようと歩き回り。
夏は風とおりのいい場所を探しに出かけ。
秋は鈴虫の声を聞こうと夜中に草むらに佇み。
夏は雪が屋根から落ちてきてずぶぬれになって。

そうして二度目の春が来て、桜が散る頃に彼はいなくなった。
頭領として、人の住む場所へなにかをしにいったらしい。僕には関係のないことだ。僕は、頭領でも、風間家の者でもないのだから。




******




風間千景が死んだ。
どういった経緯かは知らないが、彼はニンゲンと戦って死んだらしい。
それを聞いたとき、僕は何故だか。

彼が、桜の樹の下に埋まっている気がした。

彼の家の庭にある、一際大きく立派な桜だ。他の桜はとっくに散っているのに、その一本だけしぶとく咲いていた。だから。
彼は、そのしたにいるのではないかと。
あの桜が彼のいのちを吸って、咲いているのではないかと、そう思った。

掘り返してみようか。
いや、駄目だ。そんなことをしたら怒られる。
いっそのことあの樹を切り倒そうか。
あの太い幹を切るのには骨が折れそうだ。

結局、僕は何もしなかった。風が花びらを散らすたびに、目から涙が出てきたけれど、多分これはうれし泣きだ。
僕が嫌いだったのは、桜ではない。風間千景だ。
だから、僕は彼が死んで嬉しいのだろう。



風間千景を、僕は憎んでいる。
僕が妾の子として生まれたことに、彼の意志など関係ない。父が僕を遠ざけるようになったのが、本妻との子である彼が生まれたことが理由でも、そこに彼の意志はない。
それでも彼が存在しなければ、僕はこんなことにはならなかった。


「僕は」


僕は、風間千景を愛していない。















違う世界と変わらない世界。

誰得モブ風、第二段★
春っぽい話を書こうと、して、ました。
ギャグのつもりだったのに笑いどころがないだと・・・。失笑だよね、どちらかというと。










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