ただひたすら刃を交えた。
息をつく間も、なにかを考える暇もないほどに夢中で。

 見えるのは互いの瞳。聞こえるのは荒い息遣い。
それだけで、けれどそれがその場にあった全てだった。
その互いの全てが、ただ己だけを求めてくれる。
そんなことがなによりも嬉しくて、彼以外のなにもかもがどうでもいいことに思えた。

 きり結んで、二人の身体が弾き飛ばされるようにして後ろへ下がる。
土方は不敵な笑みを浮かべると、髪を白く、瞳を黄色く染めた『鬼』を見据えてさも楽しそうに言う。



「風間、次で最後にしようぜ?」


「ああ。一瞬で終わらせてやる」



 口元に笑みを浮かべたまま、斬りかかった。

 刃音が響いて、血飛沫と花弁が混ざり合って舞う。
目の前に白刃がきらめくのと、彼の身体が後ろに倒れるのがほぼ同時だった。

 腹に確かな痛みを感じて、小さく舌打ちする。
土方は傷口を押さえながら、後ろへと倒れた風間に手を差し出す。



「大丈夫か?」



 風間の左腕からも大量の血が滴っていたが、もうすでに直りかけているらしく、風間は傷口を押さえることも土方の手を取ることも無く立ち上がる。
赤へと戻ったその目が言わんとすることに気づいて、土方はばつが悪そうに言う。



「悪かった。ちっとばかし本気出しすぎた」


「俺が言っているのは其処ではない」



 拗ねたようにそっぽを向きながら呟く風間に苦笑して、優しく抱きしめると腕の中の身体が僅かに身じろいだ。



「じゃあ、何処だよ」


「・・・・何故、羅刹の力を使ったのだ」


責めるような視線を感じつつ、はぐらかすようにして腕に込めた力を強くする。



「てめぇも、使うなとは言ってなかっただろうが」


「ふざけるな。俺が戦いたかったのは羅刹ではなく貴様だ」


「一緒だろうが」


「違う」



 髪を撫でると、触るなと言われたが、無視した。



「なら今度は使わずに戦ってやるよ」



それでどうだ?とたずねると、風間は一瞬迷ったような表情を見せたが、すぐに言う。



「いや、貴様と戦うのはこれで最後だと、・・・決めた」



 二人で決めたのだからと。
確かに約束というものを人一倍大切にしている彼にしてみれば重要なことかもしれないが、土方にとってはさしたる問題ではない。
正直、もう一つのほうの約束さえ守ってくれるならば、あと何回戦ってもいいとさえ思う。
けれどそれを言うと怒られそうな気がしたので黙っておくことにした。



「そうか。お前がそう言うならそれでいい」



 そういえばこの状態のまま抱きしめていると彼の服にも血がつくんじゃないかと、今更ながら思ったが、どっちみち互いに血まみれだから大差ないかと思いなおして、そのまま抱きしめることにした。



 「千景」


呼ぶと彼の顔が朱に染まった。
微笑みながらその額に口付けて、耳元で囁く。


「もう一つの約束のほうも、守ってもらおうじゃねぇか」


言った瞬間、風間の顔が更に赤くなった。

 もう一つの、約束。
土方と風間は戦う前に二つの約束を交わした。
ひとつは、風間が言っていた「戦うのはこれで最後」というもの。
もうひとつは、必ず――



 「ひ、ひじか・・・」


「なんだ?千景?」



必ず、最期まで二人で。





 



 溢れるぐらいの愛を、君に。










土方さんルートの最後だと思ってください。

二人とももう戦う理由はないんだけど、なんか戦いたくって、無理やり理由を作って戦う・・・って話。多分。
ちなみにどっちが勝っても別になんにもない。
引き分けでも別に。
ただ戦いたかっただけ。


・・・・か、考えるな感じろ、です。