細く白い腕に舌を這わせる。
吸い付くようにすると、彼はくすぐったそうに身をよじって。

微笑んで、二人で浅い口付けを交わす。

唇を離すと、君が囁くんだ。


 「愛してる」って。









 そんな、夢をみた。







        壊れるときは







 
 ヒトが死ぬまでに打つ鼓動の回数は決まっているらしい。

どくんどくんと、絶え間なくなり続けるその音を止めれば、ヒトは永遠に生きられるんだろうか。

(無理だよね)

だって、止まったときにはもう死んでるんだから。



 「一番楽な死に方ってなに?」

隣に座る彼にたずねると、彼は食器を手に立ち上がり、台所へと向かっていった。
後姿が言う。


「そんなもの、わかるはずないであろう」


「・・・だよね」


まあ、当然といったら当然の答え。


 ソファーに寝転がって、上をみる。
天井が見えた。


 真っ白のなかの、一つだけ黒いしみ。


なんの跡だろう。



 水の音が聞こえた。
彼が食器を洗ってるらしい。

 そういえば、今日ってどっちが洗うかじゃんけんしてない。
いつもは絶対にじゃんけんしてからなのに。
何でだろう。まあいいか。ああでもちょっとだけ気になる。



 「千景、今日食器洗いじゃんけんしてない」

「先程しただろう」

「え、してないよ」

「した」

「・・・僕が勝ったんだっけ?」


 しばらくの沈黙。





「・・・忘れた」

「何それ」



 まあいっかという空気になって、とりあえず今日は千景にまかせることにする。


 再度天井を見上げた。

黒いしみは変わらず其処にあった。
よくみるとちょっと某夢の国のネズミさんの形に似てる気がしないでもない。
そっか、あれはネズミさんだ。
よし、解決。



 「明日って仕事?」

「いや、明日は休みだ」


 千景の仕事は休みが不定期、らしい。
正直なんの仕事をしてるのかよく知らない。初対面のときに聞いた気がするけど、酔ってたし。

とりあえず安定してる仕事っぽい。それから僕より給料がいい。
ちょっとむかつく。


 「じゃあ、明日一緒に公園行こうよ」

台所のほうへ声をかける。


「何故公園なのだ?」


「蟻の行列が見たい」



「・・・・潰すのか?悪趣味な」

「潰さないって。見るだけ。
そんなこと思いつく千景が悪趣味だと思う」

「貴様も一度くらいはやったことがあるだろう」

「あるの?!」

「ない」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」



 変な空気になったから、ごまかすみたいに千景のほうへと向かう。

冷蔵庫をあけた。
とくに意味はないし、何をとるわけでもないけど。

とりあえずカルピスでもいれよう。


 「カルピスってさ、水と原液2対1だっけ?」

「3対1ではないのか?
そもそもラベルに書いてあるだろう」

「これラベル剥がしてあるからわかんない。
適当でいいかな」


 こっぷの半分ぐらいまで原液をそそぐ。
それから水は淵ギリギリまで。

あ、間違えた。
これだと1対1だ。

うん、まあいいや。濃いほうが美味しいし。


 賞味期限って大丈夫なのかな。
まあ、多分変なにおいとかしないし大丈夫。


 ごくりと、一口飲んで、咽る。


「ケホっ・・・あっま・・・」

「馬鹿が。素直に3対1にしておけばよいものを」

「いや・・それは薄いと思う。うん、やっぱり2対1だね」




 ソファーに戻って、テレビをつける。
特に面白くもないバライティを見ながら、黙々とカルピスを飲み続け、咽る続ける。


 水の音が止まって、千景がこっちに戻ってきた。
横に座る。


「千景」


細く白い腕に舌を這わせる。
吸い付くようにすると、彼はくすぐったそうに身をよじって。


「おい、放せ」

「やだ」


 笑って嫌がる彼の唇を塞ぐ。
唇を離すと、君が言った。









 「思い出した、今日は食器洗いじゃんけんをしておらぬ」って。



 ほら、やっぱり。
でもなんで今言うのさ。
































 ヒトが死ぬまでに打つ鼓動の数は決まっているらしい。


 どくんどくんと波打つそれを止めるすべはないから。



 他愛のない話をして、ゆっくりと時が進む。

たまにドキドキして、寿命を縮めたり。




 そうやって少しづつ、時を重ねて眠るのが、多分世界で一番優しい死に方。
楽ではないけどね。










1500HIT記念。

とりあえず甘いのを書こうと思った結果。
・・・・あま、い・・・か?
うん。まあ、いいや。

忙しいときに書いたからテンションがおかしいですね、すみません・・・: