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坂本先生が保健室に通う理由[1/1]

保健室にやってきた坂本先生が大きなため息をつく。

「どうしたの?」

さっきからずっとこの調子。

この春この学校に赴任してから一番仲のいい坂本先生だけれど。

ここのところ随分と元気がなくて。

気にはなっていたものの、何も言わないからどうしようもなくて。

それが今日放課後になりここを訪れたかと思うと私の前に座り突然ため息をついているのだ。

落ち込んでるのか、それともどこか調子が悪いのかすらもわからないけれど。

「お茶でも飲む?」

温かいものでも飲んで落ち着いてもらおうと立ち上がろうとすると。

「花奈センセーは!!」

「ん?!」

いきなり大きな声を出されて立ち止まる。

「心の臓がだらしゅうなることなどおありにかぁーらんか?」

「心臓が苦しいとなると不整脈や動悸など、他もしかしたらもっと深刻な病などが隠れていたりとか、あ、私はないけど?もしかして坂本先生心臓の具合が?」

「ええ、よう襲われるんぜよ、こうキュウというかだらしぃというか」

「ちょっと脈を採らせてもらいますよ?」

大きな図体で項垂れる坂本先生の側に座りその右手首の脈に触れる。

「…ん〜…、ちょっと早い気がするけど別段乱れてるような感じはしないんで不整脈ってわけでもないし、ただきちんと検査行ってね?何かあると困るから」

「花奈センセーも心配してくれるんなが?」

「するに決まってるでしょ」

だって一応同僚だし。

…それに。

「確かこの間の検診の時は異常なかったって」

「そうなが」

「症状はいつから?」

「この春からやか!花奈センセーが赴まかいてきた頃ながら」

「私が赴任してから、って。もう7ヶ月ですよ?!何でもっと早く言わないのかな?体の相談なら私にしてよ、坂本先生!!」

普段一緒に飲みに行ったり食事したりするのが一番多いのに。

どうして言ってくれなかったんだろう。

みずくさいよ、坂本先生。

「のう、花奈センセー。今こがーにだらしぃがやき脈は乱れてないがか、はやいっさん脈を採ってくれやーせんか?」

「いいけど…」

差し出された右手をとってトットットと感じる脈を数えながら時計の針を見ていると。

「い、今、またキュウってなっちゅうよ」

「え?脈がちょっと速くなったかな?ぐらいだけど」

顔を見ると真っ赤だ。

そっと手を伸ばしてその額の温度を測って見ると。

「熱はないし」

だけどどんどん赤さを増していく坂本先生に心配になって、頬に手を添えて瞼を押し下げてみたり、リンパが腫れてないかと首元を触ってみると。

ハァハァと短く浅く呼吸をし真っ赤な顔が苦しそうに歪んで。

「セ、花奈センセー」

突然ガバッとその大きな体が私に覆いかぶさってきた。

私を抱きすくめたままの格好は坂本先生の胸にちょうど耳が当たるような格好で。

アレ?

やだ、私まで息苦しい感じ。

坂本先生の心臓と同じぐらいに私の心臓も飛び跳ねるように大きな音で…、って。

「…坂本先生苦しくない?すごく心臓が脈打っていて」

「アハハハハー…わしにもわかるがで。けど、これに効く薬が何かは知っちゅうやかけどね」

「はい?」

もしかして自らの病気が何であるかを彼は知っているのか?と顔を上げると。

「この病気、知りやーせんか」

「どんな…?」

「わしゃ花奈センセーに逢うと胸がだらしゅうなるき、ぎゅうっと締め付けられて。逢えん日は痛くなるき。それに花奈センセーに触れられると火照って堪らのおなるんぜよ」

「…あ、の」

「花奈センセーじゃなきゃ治せやーせん」

見下ろす瞳の青の深さに魅入られて動け無くなってしまう。

や、あ、あの、坂本先生っ?!

その瞬間。

「花奈センセーいるー?」

生徒の声に弾かれるように離れて。

私はいつも通りの席へ。

坂本先生は何故かベッドへと潜り込んで狸寝入り。

部活で汚した生徒に包帯を巻き保健室を見送った後で。

「坂本先生、起きて下さいよー」

とカーテンを開けようとした私の手を隙間から伸びてきた腕に捉えられて。

「薬が欲しいやか」

はい?!

「花奈センセーちゅう薬やか」

強く抱きしめられたと思った瞬間。

見えたのは保健室の天井とサングラスを外した坂本先生が微笑んで見下ろす、え?!

ちょ、ちょっと待って、何このシチュエーション!!!

気付けばベッドに押し倒されている状態に。

慌てて起き上がろうとしたのにほんの少し遅かった。

唇にあたるものが坂本先生の唇だとわかった瞬間、逃げようとしても。

入り込む熱さに絡め取られて息もうまくできない。

器用に膝の間に入り込んでくる長い脚がいやらしく動き。

右手は私の手を軽々と押さえ込み、左手は首筋を撫で回す

「っ、ん、ん〜っ…」

与えられる甘い刺激に漏れた声を聴かれて涙目になる私を見て。

「癖になりそうな薬ぜよ」

青い目が細く笑ってた。






帰り際並んで歩く坂本先生の頬には真っ赤な私の手形がついていた。

あの後私はハッと我に返って勢いよく彼を張り倒したのだけれど。

「すいやーせん、すいやーせん、出来心なんかじゃのうて」

「出来心の方が可愛げあるからね?!訴えられても文句言えないんですよ!!」

ギロリと睨み上げるとシュンとして項垂れるその姿がまるで。

ご主人様に叱られてショボンとしている大型犬のようで、ちょっと可哀想な気もするけど。

「…なんでもっと早く言ってくれなかったのかな」

「えっ」

「だから…もっと早く相談してくれてたら」

足を止めて彼を見上げると彼も足を止めて私を見下ろしていて。

そっと赤く腫れた頬に手を伸ばす。

「…あのね」

彼の頬を優しく挟んで引き寄せるように自分の身長にかがませて。

「ちゃんと順序は踏んで下さいね?」

微笑んで彼の頬に口付けてから何事もなかったかのように歩き出すと。

「花奈センセー」

慌てて追いかけてくる声が弾んでるのがわかって可笑しくなるけど。

…そうだよ、ったく、あんな強引なことしなくても私だってずっと、ね。

「お詫びは先生の奢りで食事でも行きましょうか?」

「も、勿論!!その後はちっくとお酒なんか飲き、あっ!!最近わしマンションの高層階に引っ越したがぜよ、これが夜景がキレイに見えるげにしてウチで乾杯なんか」

「だーかーらー!!順序!!」

「わ、わかりゆうーーー!!」

そう言いながらも。

悪気なく嬉しそうに私の手を握る彼に本当は全然嫌な気はしないのだ。



2016/2/25


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