the cake is a Lie | ナノ
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8. One night stand

上司と部下として竜崎と過ごしていく慌ただしい日々の中、こういう事態が起こる可能性を私はあえて考えないようにしていたのだと思う。

かつて私を捨てた竜崎が、今の私に興味を抱くなんてありえない。
キラ事件という前代未聞の大犯罪の捜査に挑むなかで、そんなことにうつつを抜かすわけがない。
私に欲情するなんて、絶対に起こり得ない。

つまるところただの願望だ。
そうであってほしかったというだけのこと。

だって竜崎が私に興味を抱いてしまったら、私とセックスをしたいと望んでしまったら。
私はもう、何もかも分からなくなってしまうのだから──。







「私はあなたの命令に従って着替えの補助をしていただけです。私が無防備だとか、そういう問題ではありません」
「いいえ、そういう問題です。だって香澄さんは現にこうして、今にも私に喰われそうになっているのですから」

冷静を装い淡々と自分を擁護してみたはものの、あっけなく竜崎に言い負かされてしまう。
竜崎に口で勝てるわけないと改めて実感してしまい、それ以上言葉を紡ぐことはできそうになかった。

普段よりも楽しげに目を見開き、穴があいてしまいそうなほどに私を凝視している竜崎。
その黒い瞳の、どこか熱っぽく据わった様子には見覚えがある。
思春期の頃、周りの目を盗んでセックスの真似事を楽しんでいたころと同じ、雄の性欲に駆られた目だ。


「先ほどシャツを脱がしてくれた時に、香澄さんの髪からいい匂いがしました。懐かしくて、何かが腹の奥からこみあげるような感覚で…」

得も言われぬ胸騒ぎに固く唇を噛み締めながら言葉を聞く。

「その時無性に香澄さんとセックスをしたい、そう思いました。私、今むらむらしてます。何せ日本に来てからまともに欲を発散できていないので、酷く溜まってるんですよ」

十年前を忘れたとは言わせない。
私は思春期の性欲に流されるまま彼に身体を許し、共に快楽を分かち合った。
全ては竜崎が、いや、エルのことがどうしようもなく好きだったからだ。
エルのことを心の底から信頼し、気を許し、一生を捧げる覚悟でいたから、彼と肌を重ねた。
しかし結果はあのとおり。
遊び飽きられたおもちゃが子供に捨てられるかのごとく、私はエルに別れもなく惨めに捨てられてしまった。
いつだったか竜崎はその時のことを「連れて行く必要性を感じられなかった」と言ったが、まさにその言葉どおり、私は身も心も許しながらもエルには必要とされなかったのだ。

それが唐突に部下としてスカウトしてきたかと思えば、今更「最近欲を発散できていないからセックスがしたい」だなんて。
そんなのあまりに勝手ではないか。

戯けたような間抜けな言葉を選んで飄々とそう宣う竜崎に、みぞおちの奥から再び怒りがこみあげる感覚を覚えた。
私は腕をベッドに縫い留められながらも、目尻を釣り上げて竜崎を睨む。

「…素性がしれていて、昔一線を越えた経験もある。この状況下で一番容易かつ安全にセックスできる女は私だと…そういうことですか」
「はい」

ごまかすことなくあっけらかんに頷いた竜崎に呆れ果てる。
しかし極度の緊張にため息をつく余裕もなく、私はただ竜崎の下で震えているしかないのだ。

「嫌なら今言ってください。押し倒しといて今更なんですが、今ならまだ自制が効きます。無理やり香澄さんを襲って、今後の捜査に支障を来たす結果になるのは避けたい。今断ってくださればちゃんと退いて、一人で処理しますから」

そう言ってわざとらしく私から視線を反らす竜崎。
その仰々しい姿に、まだ私は試されているのだと、その瞬間ようやく気づいた。
私がどこまで竜崎の命令に従うのか、やはり彼は試している。

何故ここまでして私の従順さを測るような真似を続けるのだろう。
着替えの補助を命じ、身体を関係を求め、かと思えば急にしおらしくしてみせたりして、こんな行動に一体どんな意味があるというのだろう。
唯一考えられることとしては、これから先の捜査でどれだけ私が献身的に竜崎の駒として動けるのかを測る実験。
そうとしか思えなかった。
そんなに自分に従順な手下がほしいのか。
そうでもしないとあのキラを捕まえることができないのか。

竜崎の考えていることが分からず、ただただ困惑するほかない。
そんな私の気も知らず、身体の関係まで持ち出してこちらを試そうとする竜崎に腹が立って仕方がなかった。

「どうしますか。私とセックス、してみますか」

ああそうだ、私は彼に腹が立っている。立っているはずなのに──。

自分でも自分の情けなさに呆れ返ってしまう。
こうして竜崎に押し倒され、性行為をしたいと言われて激憤にかられながらも──一度だけ抱かれてみたいと思う自分が、確かにいる。

十年前、竜崎とひとつになれないまま別れてしまったあの日からずっと後悔していた思いがあった。
どんなに辛くても痛くても、あの時最後までこの身に彼を受け入れていればよかったという無念の思いだ。

竜崎と再会するため十年間努力し、やっとそのチャンスを掴み取れた。
わだかまりを解消して談笑できるほど親しい仲になれた。

だからせめて最後に。
竜崎に恋する気持ちを清算したとしてもせめて一度抱かれてみたいと思うのは、罪だろうか──。


怒りも苛立ちも興奮も喜びも。
数多の感情が胸のうちで複雑に絡み合っていて、ひたすらに不愉快だった。

頭の中でずっとけたたましく警鐘が鳴り響いている。
駄目だ。いけない。
ここで彼と関係を持ってしまったら、きっとこの先共に捜査していく中でつらい思いを募らせるだけだ、と。

そう分かっているはずなのに、私は目の前にぶら下がっている甘美な誘いを振り払うことができない。

ああ──竜崎の挑発にのるフリをしてしまえば、私はこの胸の奥で息づく確かなときめきを悟られずにすむだろうか。



「わかりました」
「…」
「ただ、あなたに命令されたから応じるわけではありません」
「…どういうことですか」

怪訝に私を睨む竜崎の顔を、まっすぐ真剣に見据える。

「女の私にだって性欲はあります。最近ずっと退屈だったから、こういう刺激的なことがあってもいいかなって。…それに、莫大な金と権力を手に入れた世界でもトップクラスに優秀な男がどんなセックスをするのか興味が湧きました。だから、」
「…」
「抱いて、ください」

応じはするがその思惑通り従順に彼の言うことを聞いてしまう結果になるのは嫌だった。
命令ではなく自分の意思で、そしてそれは竜崎が優秀な雄だから抱かれたいと思っただけで、エル本人に恋い焦がれて抱かれたいわけじゃない──彼にも自分自身にもそう嘘をついてから、しおらしく竜崎の頬に両手を添えた。
竜崎は私の台詞を聞いて、その目をしばらく固く閉じた後、ぎょろりと欲にまみれた瞳で私を睨んで───そして性急に唇を重ねた。

むちゅっと柔い感触。久しぶりの竜崎の唇の柔らかさ。
それをかつて味わったのはもう十年も前の話だというのに、こうしてキスされれば容易くあの頃と同じ興奮が身体を満たしていく。

早々に舌をこちらによこしてきた竜崎は、遠慮なく私の唇を割って口内へ侵入してくる。
まだ先程の角砂糖が残っていたのだろうか、彼の舌はどこかほんのり甘くて、その風味すらも懐かしくてたまらない。
口内を探る彼の舌に自分の舌を恐る恐る触れ合わせてみれば、竜崎は尚一層大きく口を開け放ち、わたしの唇により深く自分のそれを重ね合わせた。

くちゅくちゅと卑猥な水音を響かせて、粘膜を触れ合わせる二人。
竜崎の唾液にまみれる気持ちよさに興奮を覚えピクリと身体を震わせてしまうと、彼は私の腕を押さえつけるその手により熱く力を込めた。
二人の鼻から鳴る荒い呼吸音は獣のそれのようで、静かなベッドルームをかき乱すように木霊している。
この雰囲気から覚える明瞭な既視感と、もう一度竜崎と身体を重ねようとしている罪悪感。
全てがごちゃまぜに絡み合い、尚一層私をいやらしい気分を煽っていく。


しばらくは竜崎との久しぶりのキスに溺れるままだったが、いよいよ息苦しくなってきて私のほうからそっと唇を離した。
竜崎は私の胸元に視線を移し、シャツのボタンを一つ一つ器用に外す。

「…地味な下着ですね」
「あ…っ」

その時ようやく思い出した。
お風呂上がりに突然竜崎に呼び出された私は、服は一応着替えたものの下着は就寝用のナイトブラそのままだったということに。

縁がレースになっていること以外はなんの飾りっ気もない黒のナイトブラ。
それはセックスの最中に人様に見せるにはあまりにも地味なものだった。

私は羞恥に顔を赤らめながら、隠すように手で胸元を覆った。

「急いで着替えてきたから寝る時用の下着そのままで…。恥ずかしいから見ないでください…」
「…いいえ見ます。普段しっかり身なりを整えている香澄さんがラフな下着を身に着けているというギャップは結構グッときました。メイクも髪も普段よりラフだなと思っていましたが…どこか幼い雰囲気があって、昔のあなたを思い出します」

手を強引にどかしてナイトブラに顔をうずめた竜崎は上目遣いで私の様子を見ている。
竜崎も昔のことを懐かしんで興奮してくれてることが嬉しくて、私は尚一層頬を朱に染めたが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
行き場のなくした両腕で顔を覆い隠し、竜崎の凝視する瞳から逃れようともがいてみる。
そんな私の気持ちも露知らず、竜崎は下着ごしに胸のいただきに狙いを定め、しばらくはむはむとそこをやわく噛んでいた。
ブラジャーの頂点付近が唾液に濡れていやらしいシミを湛えた頃、竜崎はもどかしげにそれを上へとずり上げた。

「やっぱりそんな見ないでください…っ。電気消しましょう」
「駄目です」

ナイトブラから容易く溢れた乳房。
それをまじまじと見つめられるのが堪らなく恥ずかしくて、咄嗟に顔をそむける。

今部屋についているのはフロアランプ一つのみ。
しかしその明るくもないが真っ暗でもない光の加減は、淫靡な雰囲気を絶妙に盛り上げていた。

少し陰になっている竜崎の顔は、普段事件について考えている淡々とした表情ではなく、欲情と雄の本能をにじませたどこか淫らな顔をしている。
男の熱を孕むその顔を見ているだけで、私はもう達してしまいそうだった。

竜崎はしばらく乳房をもてあそぶように揉みしだき、柔らかさを思う存分に楽しんだ後、その頂へ唇を寄せた。

「や、ああ……んっ!」

あのいつも甘いものを食べる唇が乳頭をやわく挟んでじゅうと強めに吸い上げて───。
私は情けなくも大きな喘ぎ声を上げてしまう。
思いがけず声が出てしまって恥じる私をよそに、竜崎はこちらの様子を楽しげに上目遣いで眺めながら、挟んだり舌でつっついたりとしつこく乳頭への愛撫を続けた。

「ふ、う…んん…」
「香澄さん、気持ちいいですか」

そう問われても素直に頷くことも出来ず、腕で覆った顔を彼から反らす。
唇を噛み締め、これ以上喘ぎ声が漏れてしまわぬように必死に堪えるが、彼が私の乳頭を舐めたり吸ったり、指でつまんだり弾いたりするたびに、恐ろしいほどの快楽が脳天を貫くように襲いかかってくる。
腰が甘く痺れる感覚に思わずびくんと大きく身体を震わせてしまうと、竜崎は勢いよく顔をあげた。

「声、我慢しないでください。香澄さんが存分に喘いでくれたほうが私も興奮します」
「…だって、は、恥ずかしい…っ」
「恥ずかしいなんて今更でしょう」

過去に散々こういうことをしてきたのだから恥ずかしがるのなんて今更だと、そういう意味だろうか。
竜崎の台詞を反芻して考えてみるも、じゅるじゅるとはしたない音を立てて行われる乳房への愛撫のせいで普段どおりの思考が出来ない。

竜崎はひとしきり乳頭を口で可愛がってみては、顔をあげて私の顔を覗き込んでくる。
気になったものはとことん観察してみるのが竜崎の捜査における常套手段だが、セックスの最中にそんなことされれば尚一層羞恥を煽られるだけだ。
私は彼のギョロッとした瞳から逃れるように顔をそむけ続け、必死に歯を食いしばって快楽を耐える。

「あ、」

散々好きなように乳房で遊んでいた竜崎が、突然顔を上げる。
淫靡な雰囲気を一瞬で散らすような竜崎の間抜けな声に、私は快楽の底から一瞬で意識を浮上させた。
いきなり何だ、と途絶えてしまった快楽にもじもじしながら彼の行動を待つ。

「ブラジャーが地味なやつだったら、やっぱり下も地味なショーツなんですかね?」
「は?…ちょ、な、何してるんですか竜崎っ」

とぼけたような口調で何を真面目に言っているんだと面食らっていると、竜崎はすばやく私の足元へと移動し、遠慮もなくがばっとスカートの裾を持ち上げ中を覗き込んだのだ。

竜崎の突然の行動にさすがに慌てふためき、隠すようにスカートを両手で押さえる。

「そんな、スカートの中覗くなんてやめてくださいってば…!」
「何を恥ずかしがっているんですか、これからスカートどころかショーツも全部脱いで私の前にさらけ出してもらうんですよ。覗くくらいで動揺しすぎです」

全く悪びれもせずに堂々と自分の行いを正当化する竜崎。
言っていることは間違いではない。
けれどもなんというか、言葉にうまく出来ないのだが、こうしてムードもなく飄々とした態度でスカートの中を見られるのはとにかく恥ずかしい。
この微妙な気持ちをうまく説明する言葉が見つからずに、口を金魚のようにパクパクさせていると、竜崎は簡単に私の手をどかしてスカートをまくり上げてしまった。

「…下は普通にレースのショーツでした」

……なんでわざわざ律儀に報告してみせるのだろう…。
そんなこと報告されなくったって、着用した本人はどんなショーツかちゃんと知っているというのに…。

妙なところで発揮されてしまった彼の探究心に呆然として再度顔を手で覆う。
呆れと羞恥とで悶えつつも竜崎の顔を盗み見てみれば、少し口角を上げながらおもしろそうに私の顔を眺めていた。
からかわれていることにようやく気づくも、また別の羞恥に襲われてやはり私は顔を隠しながら悶えるしかなかった。

「ほら、脱がしますよ」

そう言って竜崎が私の腰へと腕を伸ばしストッキングとショーツに指をかけたので、恐る恐る腰を浮かしてみた。
あっという間に脱がされてくしゃくしゃのまま適当にベッド下へ放り投げられるそれら。
その無残な姿を眺めながら、彼のなすがままにスカートも脱がされていく。

ついに私は腕に引っかかったブラウスとまくりあげられたままのブラジャーだけを残して、全裸に近い状態になってしまった。
竜崎の目線が這うように確かめるように体中を巡っている。

その恥ずかしさと居心地の悪さに上気した身を捩っていると、竜崎は何の遠慮なく私の足を割った。
指で触れられるのだろうかと緊張に身構える私をちらりと見る竜崎。
そしてなんと次の瞬間、当たり前のように下半身の中心へ顔をうずめてしまった。


「う、嘘…!?ひ…あ、ああん、んっ」
「ああ…やっぱりこうされるの、今も好きなんですね」

唐突に茂みの奥の陰核に舌を這わされ、これまでと比べ物にならないほどの甘い痺れが体中を駆け巡った。
舐められる度に抑えきれない声を漏らし、びくびくと痙攣するように腰を震わせる。
快楽のなすがままになってしまった私に、竜崎は愉快そうに悪い笑みを浮かべ、そしてまた股に顔を寄せた。

陰核の周りをなぞるように舌がうごめいたかと思えば、舌と歯でやわく挟んで──。
愛撫ひとつひとつに強い快楽を覚えると同時に、私は内心動揺してしまう。


クンニリングスなんて行為はセックスに絶対必要なものではない。
それなのにこうしてその愛撫を行うのは──私がこれに弱いことを、彼は未だ忘れていなかったからだろう。

孤児院で秘密の遊びに興じていたころ。
私は彼にこうして舐められる度に幼いながらにも感じてしまい、何度も何度も絶頂に導かれた。
今よりもまだ幼さを残したあの頃の竜崎は、私が容易く上り詰めるたびに酷く満足げに情欲の笑みを浮かべていたのだ。

もう何年も前のことだというのに、竜崎は私がこれを好んでいたことを覚えていた。
今も私をたっぷり喜ばそうと、同じことをしてくれる。
熱い息を零す竜崎が、あの時と同じように熱っぽい笑みで私を見ている。

「どんどん下から溢れてきてますよ…そんなに気持ちいいんですか?」

竜崎は騙すように私を押し倒して強引にセックスを始めた。
だから男本位の乱暴で気遣いのない、女にとって苦痛が大きい性交を行うのだろうと、私はそう予想していた。
しかし蓋を開けてみれば、それは私の身体をじっくりと快楽でほぐすような優しく穏やかな行為。
意地悪にからかったりもするが、それでも私が十分に気持ちよくなれるよう時間をかけてたっぷりと愛撫してくれる。

とても賢く、先を考えることが上手な竜崎のことだ。
ここで独りよがりの乱雑なセックスをして私の機嫌を損ねでもしたら、ただでさえ人手不足の中で捜査に使える駒が一つ減ってしまうことを理解しているのだろう。
それなら女側にも楽しんでもらいながら穏便に欲を処理したほうがいい、彼はそう思っているのかもしれない。

だがしかし、そうだとは分かっていても───。
こんな風に優しく抱かれてしまうと、まるで彼に愛されているかのような、そんな錯覚に陥ってしまうのだ。

私ももういい大人だ。
男がベッドの中で見せる優しさや甘い言葉が全く当てにならないことは知識としては知っている。
まして私は過去に一度、同じように竜崎と仲睦まじくした後に無残に捨てられてしまった経験もある。

だと言うのに、どうしてこんなにも胸の奥がきゅんと締め付けられるような心地がするのだろう。
こうして彼に丁寧に愛撫され、満ち満ちた快楽の中で愛されているかのような気分に揺蕩えば、どうしようもないほど大きな喜びを感じてしまう。

駄目だ。違う。目を覚ませ。
こんな愉悦、再び覚えてしまっては駄目なのに──。




いつの間にか竜崎は私のそこを舐めながら、膣に指を入れていた。
とうにとろとろに滴っていたそこは容易く竜崎の指を受け入れてしまう。
普段美味しそうにクリームを舐めるあの舌が、ケーキの苺を摘むあの細くて綺麗な指が、今は私の淫らな場所を存分に愛撫しているのだと思うと、私はもう頭がおかしくなってしまいそうだった。

ぴちゃぴちゃと淫猥な水音を響かせて私のそこを可愛がる竜崎をちらりと見てみる。
いやらしいところに顔を埋めたままだった彼はやはり私の様子を観察し続けていたのか、視線がかち合う。

雄の気配を孕むその目に視線を絡み取られたまま、じゅううと腫れ上がった陰核を強く吸われて──。



「あぁあ、だめ、は、ああ、きちゃう…っんぅ!!」



私は竜崎に見つめられたまま、あっけなくもビクビク身体を震わせて、達してしまった。

歯を食いしばりながらも我慢しきれない上ずった声が漏れ、腿の筋肉は激しくひきつる。
竜崎の指を咥えたままの膣をひくひく痙攣させ、そして最後にくったりと脱力した。

彼は痙攣が止んだのをしっかり見届けて、名残惜しそうに内腿にひとつ口づけした後ようやく顔を離した。

彼の唾液なのか私の体液なのかわからない液体でしとどに濡れる口元。
それを乱暴に手の甲で拭う仕草すら、今の私には興奮を煽る材料になってしまう。


「ちょっと大人しく待っていてください」

久しぶりに達してしまったせいで体中がだるい。
全身の疲労を感じつつも荒い呼吸を繰り返していると、竜崎は突然身体を起こしてそう言い、ぺたぺたと部屋から出ていった。
濡れそぼった股が空気で冷やされる感覚に戸惑いつつ大人しく待っていれば、少しして彼は戻ってきた。
その手に握られた箱を見た瞬間、私は瞠目する。

「いつの間に…。…ま、まさかワタリに用意させたわけじゃないですよね…?」
「さすがに私もそれは御免です。さっき香澄さんが私の服を取りに行った時にこっそりコンシェルジュに連絡を入れて、非対面で受け取れるようにして持ってきてもらいました」

竜崎の抜かりのなさに絶句してしまうと同時に、コンドームまで頼めば持ってきてくれる一流ホテルのサービスに感心してしまう。
竜崎は早々に箱から一包取り出した後、ジーンズのボタンに手をかけた。
やっぱりセックスの最中は自分で服を脱ぎ着できるんだな、と彼の着替えに恥じらいつつもぼんやり昔を思い出す。

「孤児院の頃と違って、今なら電話ひとつで簡単に手に入っちゃうんですね」

少し切ない気持ちに押されてか細くそうつぶやく。
竜崎はそんな私の呟きを耳聡く聞いていたようで、下着を脱ぎつつきょとんとこちらを見つめた。

「私達はもう大人ですから」

当たり前のことだが、その台詞は私達の間に長い年月が流れたことを再認識させるには十分だった。

竜崎がピッと包を開けた音が聞こえて、昔と同じように彼から目をそらす。
身体は未だ甘い怠さに揺蕩っていたが、しかし心臓は激しく打っている。
これから行われる竜崎との未知の行為に、興奮と期待と、そして得も言われぬ不安と罪悪感を感じながら、彼の準備が終わるのを天井を眺めながら静かに待った。



そしていよいよ竜崎がベッドに膝をつき、私の身体は沈む。
膝裏に添えられた手によって今一度足を開かされ、熱く硬いものが秘裂に添えられた。
反射的に身体をこわばらせてしまうと、竜崎は上体を倒して私にちゅっと優しくキスをした。


「挿れますよ」

恐る恐る頷く。
ぬぷっと水音を立てて、濡れそぼった膣の入り口にそれが侵入してくる。

熟れた果実の皮を突き破るような感覚。
多少の痛みを感じながらも、たっぷり分泌された体液のぬめりのおかげで奥まで入り切るのに時間はかからず、私の身体は昔と比べすんなりと竜崎の屹立を受け入れた。



──そう、すんなりと。




竜崎は奥まで挿入したっきり、動かなかった。
その顔を見上げてみれば、珍しく困惑するように眉根を寄せている。
その様子に「隠し事」がばれてしまったことを悟り、どうしようもなくて彼から顔を背ける。
ずるりとペニスを引き抜いた竜崎は、なにか確認するように自分と私の股を見ながら、ようやく口を開いた。

「…ヴァージンではないんですね」

──彼と別れていた十年間。
ずっと彼のことを想い続けていたが、しかし一方で、いつまでも初恋を引きずったままではいけないことも理解していた。

だから大学で仲の良かった男友達に告白された時、私は初恋を忘れるいい機会だと思った。
彼の好意を受け入れ、彼を好きになれれば、もうこんなつらい思いはしなくても済むのではないか。
その可能性に縋り付きたくて私はその男友達と交際を始め、そして何度か肌を重ねた。

結局、彼は優しくてとてもいい人だったが、好きになることは出来なかった。
どんなに丁寧に愛撫されてもこれっぽっちも気持ちよくなれなくてすぐ破局してしまったのだが、私の初めての相手が彼だったという事実は変えられない。
私はとうにヴァージンではないのだ。


後悔はしていない。
初めてをエルに捧げたかった気持ちがないわけではないが、こうしてヴァージンではないおかげですんなり彼のペニスを受け入れることができた。
もう私はあのころのような少女でなく大人の女だ。
いい大人なのにあの頃と同じように初めての痛みに泣くなんて無様な姿は晒したくなかったから、これで良かったのだと思う。


しかし──。
目の前で困惑している竜崎は、私があの頃のまま純潔を守り続けてきたと期待していたのだろう。
痛みもなく簡単に挿入できて、破瓜の出血もないことに竜崎は真実を悟ったようだ。


今ならまだ竜崎に嘘をつける。
スポーツなどで処女膜を喪失することはよくあるのだし、本当にヴァージンでも全く血が出ない人はそこそこいるそうだ。
竜崎だって知識としてはこれくらいのことは知っているはず。
だから私もそうでありまだヴァージンだ、と今この瞬間嘘をつけば良い。



でも、私は───。



「大学生の時に、経験しましたから」


かつて私を捨てた恨みを込めて、そう吐き捨てる。
私を捨てていったというのに、十年間ヴァージンで彼を待っていたなんて期待するのはあまり勝手だ。

私には私の人生がある。
彼に捨てられたのだから、それから先どう生きようと私の自由。
竜崎に失望されるいわれなんてない。

彼から顔を背けながらも、途方も無い苛立ちに唇を噛んだ。
竜崎のあの様子だと「興ざめです」なんて言ってセックスを中断するかもしれない。
これで全てが終わってしまう可能性を考えつつ、フロアランプの灯りをむしゃくしゃしながらにらみ続けていると──。

「それなら、遠慮はいらないですね」

そう低い声で言われると共に、再び大きく足を開かされ、ぐちゅんと音を立てて勢いよくペニスが入り込んできた。

「ひっ」

突然の挿入に驚愕し、引きつった声が出てしまう。
慌てて竜崎を見てみればその顔はいつもどおりの無表情に戻っていたが、私を見下ろす瞳は普段と違うどこか冷たい気配を宿していた。

竜崎は身体を起こしたまま、激しく腰を前後に動かした。
宣言通りまったく遠慮のない力加減で、熱い屹立を奥へ奥へと穿っていく。

私は竜崎の先刻までとは違う様子に恐怖を覚え、緊張で身体に力を込めてしまう。
緊張してしまえばしまうほど下半身に余計な力が入ってしまい、膣に痛みを覚えた。

「いっ…いた、い…」

目を固く閉じ顔を歪ませながらそう呟くと、竜崎は腰の動きを止めた。
かと思えば逸らし気味だった私の顔に熱い手を添え、そしてぱくりと食らいつくような深いキスをよこしてきた。

私の唇を何度も何度も味わうように食み、そしてぬめる舌で舐める。
彼の熱い舌は強引に唇を割り、淫猥な音を立てて口腔内をまさぐった。
私はその生々しい感覚に腰を疼かせ、痺れるような快感により固く握っていた掌から力が抜けていくのを感じた。

私が甘い快楽に脱力したのを察した竜崎は、深く口付けたままピストン運動を再開した。
激しく膣壁を擦り上げられていくうちにさらに分泌される愛液。
竜崎のペニスの大きさにすっかり馴染んだ膣。
いつの間にか先刻までの痛みは消え去っていた。
その代わりにやってきた、子宮の奥から湧き上がるような快感に自ずと声が出てしまうが、それらはすべて竜崎の口の中に吸い込まれた。
深く大きい抽挿に耐えながらも瞼を開いてみれば、竜崎はキスの真っ最中でもお構いなしに目を開いて私を見ている。
それがあまりにも恥ずかしくて慌てて再び目を閉じた瞬間、竜崎が乱暴に唇を離して「クッ…」と苦しそうなうめき声を上げた。

あんなに激しかった動きがピタリと止まり、奥に押し込むように腰を密着される。
膣の中で感じるペニスの痙攣する感覚───私はもしやと竜崎の黒い前髪をかき分けて顔を覗きこんでみた。

「…すいません、…出ちゃいました…」

普段は青白い頬を赤く染めながら苦しそうに顔を歪ませ、荒く呼吸を繰り返す竜崎。
私はその表情の色気にときめきながらも、竜崎がこの身体で達してくれた喜びにその背へ腕を回した。

「気持ちよかったですか」

そう尋ねてみると、竜崎はバツが悪そうな目で私を見る。

「はい、とても」
「そう…良かった…」
「でも、まだ満足できません」

え、と私が声が上げる間もなく、ペニスが膣から抜かれた。
その感触に少しうずいてしまいながらも竜崎の下半身を見てみれば、それはたった今射精したばかりには思えないほど腹にはりつきそうな勢いでしっかり反り返っている。

私が恥じらいつつも驚いているうちに、竜崎は精液の溜まったゴムをはずしゴミ箱に捨てた。

「もう一度付き合ってください」

そうして新しい包を開けて装着を終えた竜崎。
腕に引っかかったままの衣服を脱がされ、再びベッドに押し倒されてしまいそうになった時、私は慌てて静止の声を上げる。

「あ、あの!次は後ろからで…」

恥じらいに段々か細くなる声でそう提案する私に、竜崎は怪訝に眉根を寄せた。

「…後背位が好きなんですか」

別にそういうわけではない。
ただ、竜崎がセックスの最中ずっと私を見ているのがあまりにも恥ずかしくて。
その瞳に見つめられていると、私の胸の奥底にしまった恋心までも容易く暴かれてしまいそうで怖い。
あの射抜くような視線から逃れたかったのだ。

しかし私は正直に理由を話す訳にもいかず、少し悩んでから小さく頷いてみせる。
竜崎はがしがしと乱暴に頭をかいて「わかりました」と私の肩に手を添えた。
添えられた手の動きに合わせて背を向け、ふんわりとした枕に頭をうずめる。
腰を持ち上げられれば尻を突き出すような恥ずかしい体勢になってしまい、早くも後背位を提案したことを後悔してしまう。

そんな私のことなど知らず、再び押し当てられる彼の猛る性器。
筋をたどるように何度か上下させた後、先刻とは違いゆっくりと味わうように熱い屹立が膣壁を広げていく。

「んん、は、…あ」


今度の挿入は優しい。
十分に中が濡れているおかげもあり、痛みもなくただただ気持ちよかった。
ぬかるんだ膣の中を竜崎の張り詰めた屹立でこすられるとたまらなくて、自然とそれを締め付けてしまう。

「…あまり、締め付けないでください。またすぐイッてしまいそうになる…」

堪えるような声で後ろからそう聞こえてきて、私の胸は高鳴った。
竜崎が私の性器で快感に溺れていくことに女としての本能的な喜びを感じてしまって、無意識に腰をぴくんと疼かせると、彼は堪えきれないと言いたげに動きを速めていった。

竜崎の抽挿はその細い身体が動いているとは思えないほど、とても力強い。
私の中をえぐるようなはげしい腰の動きは、普段椅子の上でお菓子を食べてばかりのあの竜崎と全く結びつかない。
竜崎が腰を動かすたびに、ぱん、ぱん、と二人の汗が滲んだ肌はぶつかり合う。
熱く固く張り詰めた亀頭が私の熟れた子宮口をとんとんと忙しなく叩いている。
子宮を揺さぶられるかのような感覚に恍惚し、もはや声を抑える術もなく私は喘ぎ続けた。

「香澄さん、香澄さん…」

竜崎の声は普段の冷静さの影もなく、ただ熱に浮かされたような甘さを存分に孕んでいた。
後ろから激しく突きながらも、上体を倒して私の首に顔を埋める。
うなじを食むように口づけてくる竜崎の動きに、枕によだれを垂らしながら翻弄されていく。

「気持ちいい、気持ちいいの、竜崎…っ」

うわ言のように何度もそう呟くと、竜崎は腰の動きを止めた。
かと思えば一度ペニスを引き抜いた後、私の身体をぐるんと強引に仰向けにして、正常位で熱くて硬いものを再び押し込んだ。

「あ、ああ、ん…なんでっ」
「香澄さん、あなたの、顔が見たい…っ」

そう言い終わるよりも前に抽挿を再開した竜崎は、私の身体の横に肘をついた。
猫背をさらに丸めて私の乳房に顔を近づけたかと思えば乳頭をペロペロと舐め始める。
膣と乳頭の両方を同時に可愛がられ、叫びに近いような喘ぎ声が口から飛び出していく。

「あああああ、うあ、あんんっんぅ」
「は…っ、可愛いです、香澄さんっ…」

もう快感が強すぎて竜崎が何を言ったか理解しきれないが、それでも嬉しいことを言われたのは分かって心が跳ね上がる。
ずん、と深く強く奥を穿たれるのがあまりにも気持ちよくて、いよいよ足の筋肉が痙攣してきた。

「竜崎、りゅうざき…!」

達してしまいそうになっていることに気づき、竜崎へと震える手を必死に伸ばした。
もはや自分を抑える理性や罪悪感はかけらも残っておらず、もっともっとと竜崎を求める気持ちだけが脳内を支配していた。
いつもどこを見てるのか分からないような黒い瞳が、今は情欲の炎を湛えながら確実に私を見つめている。
髪を乱しながらも懸命に腰を振っている。
そんな彼らしくない様に竜崎の情熱的な一面が垣間見えてしまい、私はただただ興奮するしかない。

「りゅうざき、ぎゅって、して…!」

ろれつが回らないながらも何とかそう伝えれば、彼は上半身を倒し、ぴたりと身をくっつけて私の背中へ手を回してくれた。
彼に抱きしめられていることが嬉しくて、目に涙を浮かべながらその温かい背中を引き寄せた。

竜崎が私を穿つ度に二人の間で乳房がたわむ。
ぎし、ぎし、とベッドのスプリングが軋む音がやけに鼓膜に響いている。

ああ、私、わたし、もう───。

「…はぁっ……香乃子…っ、うっ……!」

切羽詰まったような声で、もう数カ月間聞いていなかった本当の名前を呼ばれた瞬間、体の奥底から恐ろしいほど大きな快感が湧き上がり、私の意識は途切れた。