忍少年と碧血丹心 019

何を言っているのだ、この人は―――

訝しげに眉を寄せた忍に、前に座る長髪の男が肩を竦めた。

「だってこれだけ綺麗な相手が傍にいて、『キング』が手出さないはずだよ〜。それに君って『あっち』関係の付き合いなんでしょ?」
「あっち関係…?」

「またまたぁ。つまりキングの『女』なんでしょって話。隠したって無駄だぞー。キング最初に言ってたジャン。『連れ』だって」
「馬鹿な事を言わないでくださいよ…冗談じゃない」

すると、忍が照れているとでも勘違いしたのか―――隣の青年が忍の腰に手を回し、ご機嫌を取るかのように顔を寄せてくる。

「―――なぁ、俺にも一度やらせてくれよ。あんたすんげぇ俺好み。な?一度でいいんだって」
「生憎と、俺にそんな趣味はありませんよ…。どうぞ他の方を誘って下さい…」

「いいじゃねぇか。どうせ『キング』にはもう愛想つかれてんだ。―――俺は優しいぞぉ〜。特に忍みたいな美人さんには、な」
「そうそう、大人しくそこの男に媚びておいた方がいいぞ。けっこうそいつんち、金持ってるから。好きなものたくさん買ってもらえるよ〜。もしかしたら上等な着物だってプレゼントしてくれるかも」

「あ〜。ずるーい。空も忍君狙ってたのにぃ〜」

頬を膨らませて、不服を訴える空に、向かい側を座っていた長髪の男が頭を撫でてそれを慰めた。

「まぁまぁ。穴掘られた男はもう女は抱けないんだって話だよ?なんせ満足出来なくなって、そのまま『女』になっちゃうらしいけど…大好きなセックスの無い関係でもいいの?」
「忍君は観賞用!!」

随分好き放題言ってくれるもんである。

「―――どうやら、誤解をされているようですね。俺はあの男とは、貴方がたが想像するような関係ではありません…」
「またまたぁ。…まぁ、女役となるとやっぱ恥ずかしいもんだよな。でもここじゃそんな事気にしなくていいんだぜ…?」

ねっとりと、青年が忍の耳朶を沿うように嘗め上げれば、一気に背筋が凍りつく。
何がきっかけだったか―――誰かの強い視線を感じて、少し視線を巡らせれば、カウンターからこちらを見つめる男の、黄金色と出会った。
『キング』と呼ばれるこのチームの頭が、まるで闘技場を眺める王者のように、落ちぶれた戦士を嘲笑うような視線で忍を見ていたのである。
その眼差しに、忍を助けるような意思は見当たらない。
それどころか、この状況をゲームのように楽しみ、忍が次にどんな行動に出るのかと愉楽しているようだ。
しかしそれも直ぐに、忍は現実に振りかえる様にして、目の前の状況に意識は引き戻される。
相手が、忍の腰をさりげなく引き寄せて、アルコール臭いその息を忍にふきかけたのだ。

「―――なぁ、忍。お前俺の『女』にならないか…?俺だったら嫌ってほど愛してやるぜ…」

甘い過ぎるコロンの香り。
しかし、それは『ユウジ』のモノと似ても似つかない、かなりきつい薔薇の臭いで、忍の鼻腔をつんとさせた。
しかしそれに関係なく、忍は顔を険しくさせる。

なんだ?

なんなのだ?

こいつらは、みんなして自分を『女』扱いしているとでもいうのか。
あの男が妙に馴れ馴れしくするのも、時折受けるその視線がどこか熱っぽいのも、全ては全て―――

―――忍を、『女』として見ているから…

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