さら、とおくれ髪を耳へかければ花がこぼれた。

それは淡い美しさを表す比喩でなく事実。
耳のそばにあげた手のひらを転がりどこからともなく、
【マメ科レンリソウ属の植物であるスイートピー(和名でジャコウエンドウ、カオリエンドウとも)】の花がぽろりと落ち、テーブルの上に決して小さくないその紫色を飾ったのは紛れもない事実だった。

「……あれ、…どこから」
その一部始終を見つめていた折原臨也は驚きで少し間目を瞠った後、呟くように発音した。
喫茶店内、二つ向こうのテーブルに座っていた女性が耳に手をやったと思えば、手品のようにその手の中から花が出てきた、ように見えたのだった。
目はいいので見間違いということは無い。しかし出来事としては理解がし難く。
手品の練習ですと言われれば納得がいきそうなものの(?)、花を出した当の本人は見るからに慌てふためきテーブルの上の物を落としそうになっていたのでその線は消えている。
食器がぶつかる音が少し響いた後。
出所不明のスイートピーは、素早くくしゃりと掴まれ女性のポケットの中に突っ込まれてしまった。
(…ああ、勿体無いなぁ)
程なくして女性は店を後にしたが、急ぐ傍ら臨也の視線には一向に気が付かなかった。

♂♀

「ちょっとそこのお嬢さん」
「…?」
突然背後からいささか陳腐な言葉が掛けられ、大和は疑問符を浮かべながら恐る恐る振り向いた。
振り向いた先には眉目秀麗を具現化したような顔に笑顔を張り付けた、黒いコートの青年。
声を掛けられて御礼ものの好みな容姿だったが、笑みを向けられる覚えが全くないので要領を得ないまま何でしょうかと問えば、彼は目を細める。
「あれ、あんなに見てたのに気が付かなかったの?」
花をこぼすお嬢さん、と愉快そうに続く言葉は大和を少なからず震撼させた。
(あ、見られてた)
(普通に見られてたんだアレ)
自身の、花を生み出してしまうという特異な体質に思いを寄越しながら大和は頭を抱えた。まるで粗相をした子どものように、やっちゃった〜と危機感無く呟く。
ばれた所で信じるほどの得も価値も無く忘れ去られそうな自らの特異は、見つけられ追及されたときが一番面倒くさい。
研究機関に攫われ解剖されるという危険性に思い当たる以前に、楽観してしまう大和の感覚はこの時点で危険信号を察知しておくべきだった、と後悔することになるのだが。
「自戒はともかくさ、俺にもっと見せてよ」
何を、と今更ながらにしらを切る余地は残されていないようだった。
「その、花を生むチカラ?」


それで、ついでじゃないけどポケットの中で潰れてる花の居場所を作ってあげる。





タイトルはお題配布サイト氷葬さまより


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