闇鍋 | ナノ  銃の扱いは子どもの頃から手慣れていた。

 初めて手にしたのは八歳の頃だ。そろそろ身を守る術を持った方が良いという両親の意向で、SPをしている長兄に教えられた。筋がいいと尊敬する兄に褒められてから、その道に嵌まったのは今でも安直な理由だと思う。その頃はまだ身体も未熟だったから、手にするのは小さなハンドガンばかりだったけど、自分の身を守るには十分な代物だった。
 それから十年も経てば、ある程度は身体も出来てくるし手慣れてくる。ライフルでもサブマシンガンでもこなせる自信もできた。実戦も何度か経験している。生まれは東北だけど、元傭兵である両親を持つ俺も、それに倣って将来はフリーの傭兵稼業に進むものだと思っていたんだ。

「ガンマ団?」
「そう、お前も耳にした事もあるだろう。来年からそこにある士官学校に進みなさい」
あと数ヶ月で高校を卒業する俺に両親は話があると呼び出しそう告げてきた。勿論、ガンマ団は一般ならいざ知らず、裏社会でなら知らないヤツは居ない程の組織だ。ウチも半分はその世界に浸かっているから俺たち家族全員は知っている。ガンマ団はとても長く歴史がある組織のようで、今では世界を牛耳っているのでは、なんて噂される始末だ。
「随分と唐突だけど、そこでスパイ活動でもすれば良いの?」
「違う違う。お前もそろそろ充実した場所でその才能を生かして欲しいと思っただけだ」
嫌ならいい、と笑う父。視線を母に向ければ彼女もどうやら同じ考えのようだ。両親はまだ庇護下にある俺をもう一人前として見ている。余所は知らないか、ウチでは銃を扱い、戦場に出て無傷で帰還すれば一人前という謎家訓があった。尊敬する長兄も、ちょっと苦手なパワフルな姉も、農家を継いだぼんやりした次兄も実の所戦場に出て無傷で帰ってきている。俺もつい先日その一人前の仲間入りをした。皆高校を卒業してから思い思い好きに生きている。勿論、両親に倣って俺もフリーの傭兵になろうか、なんて思っていたけど、実の所、俺はまだ具体的な進路は決めかねていた。

「一晩考えてみなさい。いくらお前が一人前になったとしても世界は広いんだ。経験として損はないよ」

 この時は井の中の蛙というものだったと思う。自分がまだ子どもであるのは理解していたが、実力がどこまで通じるかというのはとても曖昧で限界というものを知らなかった。

 それを思い切りたたきつけられ、理解したのは、ガンマ団総帥、マジックに出会った時だった。ガンマ団士官学校入学の挨拶に訪れた理事長はとても穏やかなナイスミドルだと最初は認識した。あれが覇王と呼ばれた男なのかと肩透かしを食らったが、それはすぐに訂正することになる。というのも、共に入学した中に総帥の命を狙う暗殺者が紛れていたのだ。どよめく俺たち新入生を前に彼は表情を変えず、暗殺者をあっけなく地に沈めた。
「いやぁ、驚かせてしまってすまないね。セキュリティはばっちりだったんだけど、どうやら鼠が入り込んでいたみたいだ。何はともあれ、入学おめでとう、諸君。あとは恒例の名前を覚えあって親交を深めたまえ」
爽やかに退場する総帥の背中と引き摺られていくぴくりとも動かない暗殺者に、その場にいた者全てが凍りついただろう。チラッと見えた、彼の瞳の奥に潜む輝きが俺の、俺たちの心臓を鷲掴みにするような圧力を与えていた。誰もがあの男には逆らってはいけない、と心に深く刻んだ出来事だった。それと同時に、俺の中にはこの組織は退屈はしなさそうだと高揚したのも事実。俺の視界が拓けた瞬間だった。

 士官学校には既に前線に出ている上級生もいるという。ここであの人たちに出会った。

 士官学校に常設されている射撃場がある。軍人であれば必ず銃火器の扱いは覚える必要があった。俺は元々慣れていたから、改めて学ぶ必要は無かったが、精密を上げるため訓練は欠かさないように努めていた。
 解放されている射撃場は比較的人がいなかった。大体は和気藹々と道場で組み手をするものが多い。というもの、この組織はちょっと変わった特技や体質を持つ者が集まっている。弾切れを起こせばあまり役に立たない銃を極めようとするのは俺のように何の特技も体質もない者くらいだろう。
 初日はあんな事件があったから気を引き締めていた俺たちだったが、大体はまだ少年と呼ばれる年代の子どもだ。そりゃ、歳を同じくする、似た年代が揃えば気も緩み、一般の学校のようにふざけたり友達になったりするのが普通だ。はてさて、この中で軍人として残るのは何割になるのやら。まぁ、シャバに戻れるのならば戻った方が良い。俺のように、行き着く先が同じならまた別の話になるだろうけど。

 射撃場は常に俺の独壇場となる事が多かったが、今日は珍しく人が居た。短い髪の背が高い男だ。同期には居なかった顔ぶれと制服だからおそらくは俺より年上、上級生だろう。数人の取り巻きと一緒に的に当たる当たらないで盛り上がっていた。管理人に声をかけていつもの場所に陣取る。集団は俺に気付かないぐらい騒いでいたが、多少うるさくてもこれも訓練だと思うことにする。
 戦場では物静かな場所なんて狙撃するにしたってそうそう無い。移動しながら撃つことだってある。どんなことでも可能性を考えての訓練は必要だ。耳栓のためのヘッドフォンを装着してゴーグルをかける。もう、手に馴染んだモデルガンを構え、標準を定め一点集中。引き金に指をかけ、破裂音と同時当たる中心。実弾ならもっと反動や重さはあるのだが、贅沢は言ってられない。これでも、射撃場で貸し出されているのはそれに近づけたものなのだ。続けて、二発、三発と当たった箇所と同じ所を狙い続ける。数ミリもずれないよう打ち続けた。全弾終えると、ふ、と力を抜く。モニターに映し出される点数は前回と変わらず、得点は高いままをキープできていた。
 腕は鈍っていない事に安堵すると不意に声をかけられた。

「……何でしょうか?」
おそらくは上級生グループのリーダー的な人だろう。一応、上官に当たる人になるだろうから、一応敬語だ。まだ一年目だし変に目を付けられたくない。
「お前すげーな! あんな点数早々出ねえって」
思わぬ言葉にこちらは肩透かしをくらった気分だ。新入生のくせに生意気だとかなんとかを想定してたから、尚更。
「む、昔から、銃は慣れていましたので」
「やっぱなぁ。オレの過去最高スコア軽々クリアしてるヤツが居るっておっさんから聞いてさ。久しぶりにやってみたら結構なまってんの。驚いたぜ」
おおらかに笑う男に俺は生返事をした。これはちょっと反応に困る。なんとなくプライドの高そうな予感がするが、あまり地雷は踏みたくない。
「オレ、シンタロー。お前は?」
差し出された右手に一瞬躊躇したが、ここで拒否をすればあまり良い印象は持たれないと踏んで、自分の名を告げ恐る恐る右手を差し出した。思いの外強く握られてしまい、身体が強ばる。

「次は負けねぇからナ?」

 これがシンタロー総帥との初対面である。

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もっと長くなりそうなので、一旦ここまで。
次は千江利がシヤマに惚れる(憧れる)までを書いてみたい。
負けず嫌いのシンちゃん。チェリーボゥイはシンちゃん達の3,4期後に入っているイメージ。
歳自体は1〜2歳離れてるぐらいに設定。
千江利は四兄弟の末っ子です。

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