闇鍋 | ナノ 諜報会:ガンマ団と懇意にしている組織。世界の情報屋さん。
これだけ把握してれば大丈夫です。

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 父には大切なひとがいる。勿論、自分たち家族に対してもそれなりの情があり、大切にしてくれていた。仕事の都合であまり顔を合わせることは多くは無かったけど、良き父だと、思う。

「こちらにいらっしゃい」
母の声に呼ばれ、振り向いた。
「お父さんの邪魔はしちゃ駄目よ」
「はぁい」
縁側で並んで座る父と、赤い軍服の男の人。あのひとが父の大切なひと。

 父は元殺し屋集団と呼ばれたガンマ団に所属している。今はお仕置き集団という肩書きで各国で傭兵稼業を行っていた。昔と大差ないと父は笑うが命の危険が大分無くなったと母が安堵していたのは記憶に新しい。ようやく、現在の総帥の方針が組織内に浸透した証拠だろう。
 以前は、前総帥が良くこちらに顔を出すことがあったが、それも今では数える程しかない。

「母さん」
「なあに?」
「いいの?」
毎度の事ながら、父と彼が二人きりになるのは多少ながら心がざわついた。馬鹿の一つ覚えのように、彼が訪れる度、母に尋ねるのだ。
「お父さんの大切なひとだからね。ゆっくりさせてあげたいのよ」
「……父さん、取られちゃうんじゃない?」
踏み込んだ質問に、一瞬の間。理解した母は吹き出した。普段の母は穏やかに笑うひとだ。こんな風に大笑いをするのはよほどの事が無い限り、しない。
「あはは。可笑しい、あぁ、ごめんね」
「母さんは心配じゃないの?」
母は自分でも解るほど、父に惚れ込んでいる。無意識のように惚気てくれるから幼心にいたたまれない気持ちになることがあった。
「大丈夫よ。昔から、お父さんの一番はあのひとだから。あのひとが一番である限り、私は安心していられるの」
再び視線を手前に戻し、茶を淹れる。
「一番なら、優先順位が違うんじゃない?」
「そうね。でも、あのひと達には切っても切れない縁というのがあるよ。私と夫婦になってくれたのが逆に奇跡に近いのでしょうね」
人生、解らないものだと母は一人納得する。いまいち、よく解らない。
「まだ解らなくていいの。あなたがもっと大人になったらなんとなく理解できればいいだけの話だから」
ただ、と手を止めてこちらに向き直る。
「だからと言って、おとうさんが私たちの事をなんとも思っていないって事は無いから。それだけは信じてあげてね?」
「うん」
それは、理解している。父は不器用ながら、自分を母を慈しんでくれている。こちらに向けられる情が嘘ではない事は身に染みるほど解っていた。

 だからなのか、時々訪れる父の大切なひと――シンタローさんが苦しそうな顔をすることに違和感を覚えてしまうのは。

 なんとなく、父に対してシンタローさんは母と同じ感情を持っているのかもしれない。憶測ではあるが、棘のある言い回しとは裏腹に父を見つめる視線(おそらく、父の視界には入っていない)は母が父を見つめるものと同じものだったから。






「大きくなったな」
「へぇ、ちょうど十二になるやろか」
「来年中学か」
「言うても、諜報会のアカデミーに進ませるんやけど」
「え? ガンマ団の士官学校じゃねぇーの?」
「本人の希望で。わても理由を聞いたらそっちの方がええんやと」
「あれか、身内がいるのは嫌って奴か」
「どうやろなぁ……アレは何気にマジック様を避けてはったから」
「え、親父来てンの?」
「時々、やろか。子どもの顔見て、家内と少しばかり話して依頼置いて帰るだけやけど」
「……まだお前が受けてんのか」
「いや、今は家内宛どす。家内も諜報会の重鎮やし、マジック様の手の届かん所を依頼しとるんやろ。知らんけど」
「あぁ、守秘義務か」
「死んでも教えてくれへんやろな。家内はその辺今もプロやから」
「相変わらず、か」
「なぁ、シンタローはん」
「あ?」
「家内も言うてはったけど、口実は作らんで来はったらええんとちゃいます?」
「……何のことだ」
「友達、やろ?」
「お前だけだろ」
「まぁ、シンタローはんはわての大事なだいーじなオトモダチやから。昔も、今も」
「今も、ねぇ」
「家内も別にわての好きにしはったらええ言うとります。シンタローはんが覚悟を決めたなら応えてやるのも心友の役目だと」
「……あいつ公認かよ」
「よぉ出来た嫁ですわ」
「……ほんと、何なんだよ。お前ら」
「何というか、わてらはなんだかんだとシンタローはんが好きなんやろなぁ」
「……勘弁してくれ」


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夢と腐のハイブリット第二弾。
妻子持ちで子どももある程度大きくなって、許容範囲が大きくなったアラがシンちゃんに発破をかける話。
旦那に理解ある嫁でそれなりに大事にしてくれるなら好きにしても構わないと公認されているので、アラもちょっとは『オトモダチ』の関係以上でシンタローを受け入れても良いかなと達観した年代に入った感じ。家族を持って緩やかに価値観が変わるかなと思って書いてみた。
シンちゃんはまだ覚悟が出来ていない状況。大体40代始めかな。

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