カミヨミ | ナノ  固く絞った手ぬぐいを少し広げて八雲様の肩に当てる。

「痛、もうちょっと優しくしてよぉ」
「も、申し訳ありません」
「ほんともー最悪。あの鬼っ子どもめ」

 八雲様は調査で海辺に向かわれていた。その時に日明様方に鉢合わせ、いつもの如くすったもんだがあり上着を脱ぐ羽目になったとか。
「アタシどうも日に焼けない体質みたいで」
そう、彼は日に焼けない体質なのだ。赤くなるだけで終わる。ただ赤くなるのは肌に炎症を起こしているから痛みを伴うのも当たり前。彼らの手前、弱ってる自分を見せない矜持は八雲様は持っていた。だからこうして冷やして差し上げる必要があるのだ。氷屋から仕入れた後で良かった。
少しでも炎症を緩和できるなら何よりだ。

「八雲様は色白でお綺麗で羨ましいです」
「ふふん。アタシが美しいのは今に始まったことじゃないわよ」
「そうですね」
「お手入れ方法教えてあげようか?」
うつ伏せのままいたずらっぽい顔でこちらを見やる。八雲様の流し目はどこか色っぽくてその誘いの飲まれてしまいそうになる。だけど、せっかくの申し出ではあるが私は首を振る。
「私には必要ないものですから」
「あんたねぇ……年頃の娘なら綺麗になりたいって思うもんじゃないの?」
「私は使用人ですし、必要最低限でいいんですよ」
これでいいんです、と笑えば八雲様はそれ以上追求はしないでくれた。


「あ、いたいた」
「八雲様? いかがされました?」
「はいこれ、あげる」
差し出された風呂敷。受け取り中を確認すると老舗の化粧品。
「え、え? 八雲?」
「試しに使ってみたけどあまり肌に合わないものだったからあんたにあげるわ」
「そんな! 勿体のうございます」
「いいのよ」
しなを作り、優雅に微笑む八雲様。なんと様になることか。
「アタシが渡したいだけだから」
用は済んだと、八雲様はまだ戸惑う私に背を向け、戻られた。
頂いた品を見る。使った形跡がないのは一目瞭然。
「……ずるいなぁ」
こんなことをされてしまえば使用人としての立場がなくなるではないか。
「本当に、八雲様は」
にやける口が抑えられない。

 甘やかされていると、自負はある。
 あの方の気まぐれであったとしても、生涯、ご恩は返し尽くそうと気を引き締めた残暑。


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最近140字内に収まらない。なんでや。
これもちゃんと肉付けして本にまとめたいなと思います。
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