カミヨミ | ナノ  帰宅された八雲様の様子がおかしかった。壁伝いに部屋に戻ったと思えば扉が閉まったと同時に鈍い音が響く。何か、物が落ちたような。寝台には間に合わなかったのだろうか。どこかぶつけて痣などになっていないといいけれど。
 あの様子では湯浴みをしないで寝てしまうのかもしれない。だったらせめて汗を拭った方が良いだろう。あの人はとてもきれい好きだから。そう思い、盥にお湯を張り、数枚手ぬぐいを持って戸口を叩いた。
「……後にして頂戴」
扉越しに聞こえたのはとても気怠げな声だ。

「お疲れのところ申し訳ありません。お休みになられる前にせめてお身体をお拭きになった方がよろしいかと思いまして、湯をお持ちしました」
すぐに返事は無かった。それほど億劫なのだろうか。
「あの、差し出がましいようでしたら出直します」
これで返事が無かったら、そのまま戻ろう。そう心に決めてしばらく待つ。

 わずかな時間だったと思う。

「……入っていいわよ」
と入室許可を頂けた。

 寝台に服を着たまま横たわる八雲様は酷く疲れているようだ。湯が零れないように寝台近くにある脚の小さな机に置き、手ぬぐいを湯に浸す。水浸しにならないよう固めに絞って八雲様に振り返った。彼は身体を起こしてじっとこちらを見つめている。
 その瞳はどこか憂いを帯びているような、そんな気がした。

「今日はとてもお疲れだったようですね」
手ぬぐいを差し出すも彼はそれを取らなかった。首を傾げるとおもむろに上着のボタンを外し始める。私はとっさに視線を反らす。
「や、八雲様」
何を、と続ければ低い笑い声。
「何今更照れてんのよ。アタシ疲れてるの」
「さようで」
「だから」
腕を掴まれた。恐る恐る視線を戻すと胸元がはだけた八雲様と目が合う。その瞳はどこか楽しそうで悪戯を思いついた子どものようでもあった。あまり良いことを考えていない笑い方だと最近学んだ。
「アンタが代わりに拭いて頂戴」
「……伽を、ご所望ですか?」
「やぁだ! 何いってんの。悪いけどアタシそれほど元気じゃないのよ」
勘違いだと気付いて、一気に顔が熱くなった。なんとはしたない事だろう。
「も、申し訳ありません。とんだご無礼を……」
尻すぼみになった私を咎めるでもなく、彼はただ微笑んだまま私の腕をさする。
「可愛がってあげるのはまた今度ね。今のアタシはとっても疲れてンの。すぐにでも寝てしまいたいくらい」
「……はい」
するりと落ちる八雲様の衣服。

「ね、綺麗にして頂戴?」

 逞しくも美しい八雲様のお身体をただ、ただ、清める事に専念した。

「上手に出来たら、ご褒美あげる」

 身を委ねる八雲様はとても愉しそうだった。



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推しが疲れている所が見てみたい。八雲さん編。
彼の場合、ギリギリな所は保っているのかもしれない。

気持ちよかったりすると寝落ちる。
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