アーミン | ナノ  私は生まれながらにしてシャチのハッピーチャイルド。おまけに長寿だから島の行く末はずっと見てきた。生まれた時から側に居た番人たちはいつの間にか代替わりして、今は若い二人が担当している。

 初代番人、ジャンは大事なひとが出来たと言って島を出て行った。適合したリキッドが拙いながら頑張って努めていてくれている。ヤンキーだけど可愛げがあるから、からかいながらも見守っていた。アスは青い秘石に見限られてしまって蒸発、と思いきや、人間の組織に上手に溶け込んでいた模様。元気で居てくれるならそれでよし。

「あの、あんたにとってのジャンさんってどんな人だったんですか?」
「あいつ?」
おずおずと尋ねてきたリキッドに私は首を傾げる。別にアイツに対して恋焦がれているとか、大切なひととかそういうカテゴリではないのは確か。
「……幼馴染み?」
兄弟のようなものだと思う、と答えれば、リキッドは笑った。
ただ、始まりの島に居たときは風になびいた腰ミノが揺れる度、尾ひれでぶん殴ってやろうかと思っていたけど。

「……にしても珍しいね。リキッドが昔の話を持ち出すなんて」

 最後の赤の一族であるパプワくんが亡くなってもう大分経つ。彼の生き写しである子供らはかつての赤の一族と同じように血を濃く繋いでいるようだ。時々は外の血を迎え入れる事はあるけれど、基本的には始まりの島と同じように営んでいる。まぁ、数百年も経てば仕方が無い事と言えばそうなのだろう。ただ、唯一違うことは赤と青の秘石がもう居ないこと。
 予感でしかないが、多分またあの二つの石は戻ってくるだろう。あくまで予測でしかないが。

「オレだってたまには昔を懐かしんだりしますよ」
「そう」

 ちょっと昔まで泣きべそをかいていたとは思えない表情をするようになった彼。番人なのに家政婦のような真似事は今も続けている。リキッド曰く、手を動かさないと落ち着かないらしい。

「ジャンは、なんだろう……相性に良い相手ならうまいことやれる性質なんだけど、相性が悪い、とくに青の一族関係かな。スレスレの所で爆発しちゃう見たいで。揉め事の中心には何故か昔からいるのよね、あいつ」
そういえば、青の一族に一度破壊されたんだっけか。器用貧乏もあそこまで行くとすごいよね。自ら泥を被りに行くあたり、形振り構わないというか。
 好きか嫌いかと言えば、嫌いではなかった。でも番になるのは死んでもゴメンである。ジャンは昔から番人として在るようにされているから、私たちのようなナマモノたちとは少し、異質だった。
 ハッピーチャイルドの中で、秘石の影響を強く受けている私が言うのもなんだけど。

「変な奴だし、今も一発お見舞いしてやりたいと思っているけど、幸せで居て欲しいかなって思うわ」
「そうっスか」
「そろそろ帰るわ。ソージも戻ってくると思うし」
「えぇ、また」
「寂しかったらいつでも呼んでね。おねーさんが慰めてあげるから」
「アリ○ルのミュージカルしてくれるなら喜んでお願いします」
「なにそれ、知らんがな」

 ショックを受けるリキッドを無視してそのまま海に潜る。美しい島であるのは相変わらずだけど、島のナマモノたちは気がつけば段々と数が減ってきた。
 ヨッパライダー様も出現することもない。何か、終わりを告げるような、そんな予感がしてならなかった。

 リキッドには言っていないけど、私に少しずつ老化が出始めていた。多分、私の見守る役目は終わりを告げるものなのだろう。

 大好きなひとたちが居なくなってしまって、何故自分だけ生き長らえているのか疑問に思いながらも心はとうの昔に凪いでいる。運命だと受け入れるしかないのだ。

 でも、できるなら、せめて島が終わりを迎えるその前には。

「ジャンもこの島に戻ってくればいいのに」


 なんて、叶うはずのない事を呟き、私は住処を目指した。

++++
本編終了後、500年後とかどういう状況になるのかなって妄想のネタだし。ナマモノ夢主は一度書いてみたいので、いずれちゃんとまとめたい所。
番人はずっと、番人のままなのか。ジャンって不老不死のままなのか、人間として死ぬのかによってルートが分かれそうです。
どこに行ってもトラブルメーカーというのはなんか、不運通り越して災害とは業が深いというかなんというか。扱いに困る、という奴ですかね……
ちゃんと噛み砕いてないので、色々解釈がふわふわしてますけど、メモがてらに。

初出:2020/05/18
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