アーミン | ナノ
 ぼんやりテレビを見ていたら、背後から忍び寄る足音。背後に立ったかと思うとそのまま私を包むように座り込み炬燵にその長い脚を入れてきた。平均とは言いがたい体格の男が平均的な私と一緒に座る炬燵はとても狭い。じろりと見上げて睨み付けるが俺様相手にどこまで通じるものか。でも一応は抗議しておく。
「ちょっと、なんでここに座るの」
「別にいいだろーが。ほれ、いらねぇの?」
 目の間に置かれたマグカップ。ほんのり甘い香り、おそらく蜂蜜とシナモンを入れたホットミルクだろう。嫌いじゃないというかむしろ好物だ。人の好意は無碍にしてはいけない。差し出されたものは有り難くいただくこととする。だってもったいないし。
「っていうか、シンちゃんが狭いでしょうよ」
「まぁ、俺の脚が長いのはしかたねぇからナ」
「うわー」
 そりゃ、192センチあるなら脚も長いでしょうよ。腹立つ位。

 でも、大柄な男の人がこう、縮こまっているのはちょっと可愛いとか思ったりなんかして。惚れた欲目だから仕方ない。絶対言わないけど。
すっぽり包まれるせいか、背中は暖かいしホットミルクのおかげで中からぽかぽかしてきた。ブランデーちょっと入れたのかしら。
「……シンちゃん寒くないの?」
「あ? 俺はお前と違って鍛えてンの。この程度の寒さはどうってことねーよ」
 舐めんナ、と人を小馬鹿にしたように喉奥で笑った。密着してるから声の振動が伝わってくる。
「まぁ、アレだ」
 するりとお腹前に回される腕。更に近くなる吐息。
「お前というカイロもあるから心配すンなって」
「……だからホットミルクを作ってくれた訳ね」
「ん、好きだろ?」
「そりゃ、まぁ、てかシンちゃん、重い」
 しまった、閉じ込められた。これでは逃げ出すことができない。
「んだヨ。冷てぇ事言うなって」
 セーターの裾から入り込む手を掴むも時すでに遅し。
「……お前、太った?」
「……誰かさんのご飯が美味しいのがいけないのよ」
 ぎりぎりと日の高い内から不届きな事に及ぼうとする手を押さえつけるも、非力な女の腕では敵わない。ふにふにと柔からい肉を確かめるように撫で回す骨張った大きな手。いや、待って、こんな日の高い内から何してくれてんの、この男は。
「ほう? そーかそーか。そんなに俺の飯が美味かったのか」
 表情は見えないがおそらくにんまりと人の悪い笑みを浮かべているのだろう。彼の事は好きだが、こういう所は嫌いである。でも、なんだかんだと流されてしまうのは惚れたもの負けというものだろうか。
「そんじゃ、せっかくだし運動でもしてシェイプアップしようぜ」
「シンちゃん、段々とオヤジ臭くなってきたね」
「うっせ。いいだろー? 久しぶりなんだし」
「久しぶりでももうちょっと待てないの?」
「いや、あと2時間で戻らなきゃなんねぇ」
「だったら、そんなことしてる暇ないでしょ?」
 この男、執務を抜け出してきやがったのか。あぁ、後で多分キンタローさんあたりの小言が飛んでくるだろうなぁ。
「充電させてくれよ。しばらく会えなくなるから」
「どういう意味よ、そ、れ……っ!?」
 ズボンの隙間にねじ込まれた指先、下腹部を包むように撫でつける。お尻のあたりに感じる硬い感触。

「炬燵かがりって、知ってるか?」


+++++
生殺し。
炬燵ネタはわりかし好きなんですよね。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -