好物見つけた
四つ子、五つ子と新しい兄弟がまたたくさん増えた。ナナシは毎日幸せでいっぱいだ。
でも一族を失った日の事を忘れる事はなかった。
辛くて、寂しくて……リンリンに対する黒い感情がふつふつと湧き上がってくる。一人になるとこの感情を抑える事が出来ない。兄弟が産まれてから毎日笑っているナナシから笑顔が消える瞬間だ。
「……ナナシお姉ちゃん?」
ナナシがハッとして後ろを振り返ると扉の前にペロスペローが立っていた。
「ナナシ、お姉ちゃん」
ペロスペローは服をギュッと掴んで不安そうにこちらを見ている。ナナシはにっこりと笑いながらペロスペローの前まで行くと頭を優しく撫でた。
「どうしたのォ?」
「……お、お昼寝から起きたら、お姉ちゃんいないから、おれ探しに来た」
「ほんとー?嬉しい!ありがとう!」
「……ナナシお姉ちゃん」
「なァに?」
「あの、ね……」
「うん」
「……な、なんでもない!」
そう言いながらペロスペローはナナシの手を強く握って歩き出した。
「えっと、今日のおやつは何かな?ペロリン♪」
「なんだろうねェ?ペロスペローは何がいい?」
「キャンディ!」
でもペロスペローの手にはもうキャンディが握られていたので、もう食べてるー!と言いながらナナシは笑った。
さっきまで昼寝をしていた二歳のカタクリ、ダイフク、オーブンの三人もいつの間にか起きていたようで元気いっぱいに部屋の中を走り回っていた。
そんな三つ子をコンポートはまだ少し眠たそうな顔をしながら眺めている。
「皆起きたのねェ!おはよー」
「ねェね!!!」
三つ子は勢い良く駆け寄ってきた。もちろん一番はカタクリで勢い良く抱きついてきたのでナナシはよしよしと頭を撫でてやる。少し遅れてやって来たダイフクとオーブンもおれもー!と抱きついてくるので順番に笑顔で撫でる。
「お姉ちゃんどこいってたの?いないからびっくりした」
ゆっくりと歩いてきたコンポートの頭をごめんねェと言いながらナナシは撫でた。
「コンポートは今日のおやつ何がいい?」
「んー。フルーツがはいってたらなんでも!」
「コンポートはフルーツが本当に好きねェ」
「おれね、おれね、このまえたべたやつ!まめがはいってるの!」
「ダイフクは豆大福ねェ。大好きって言ってたもんねェ」
「おれはねー!このまえたべたケーキのやつとねーきのうたべたフワフワしたやつとねー」
「フフ。オーブンは焼き菓子が好きなのねェ」
「おれなんでもいい!あまいのぜんぶすき!」
「あら!カタクリは甘いお菓子全部かァ!」
今日のおやつも楽しみだねと言って皆で遊びながらおやつの時間になるのを待った。
三時になるとおやつの時間ですよーと世話係りが呼びに来たので皆で部屋を出た。
「あ、今日はドーナツだー」
「フルーツない……」
「でも美味しそうだぞコンポート!ペロリン♪」
「どーなつ?」
まだドーナツを食べた事のない三つ子はドーナツをキラキラとした目で見詰めている。
「ドーナツはねー、えっと……なんだっけ?」
「揚げたお菓子だよお姉ちゃん。ペロリン♪」
「そう、それ!ペロスペロー天才!」
「エヘヘ」
「とっても美味しいんだよォ」
「いっぱいたべるー!」
「フフ。じゃあ、いただきますしようねー」
ナナシがそう言えば皆元気良くいただきますと言ってドーナツにかぶりついた。
「おいしー!!」
ダイフクとオーブンは笑顔でドーナツを食べていく。フルーツがないと言っていたコンポートも結局笑顔で食べている。
ペロスペローもおいしいなーと思いながら食べていたのだが、カタクリの様子がおかしい事に気が付いた。もちろんナナシも気付いていてどうしたの?と声をかけている。
いつもなら勢い良くお菓子を食べ続けるカタクリの動きが止まっていてしかも震えているのだ。
「大丈夫?好きじゃなかった?」
カタクリは首をブンブンと横に振ってからまたドーナツを一口かじり震える。
「え?ほ、本当に何?大丈夫?」
「カ、カタクリ?」
「………これ、しゅごい」
そう言うとカタクリはまたドーナツを一口かじり震える。その目はキラキラとしていて、カタクリがドーナツを気に入ったのだとナナシとペロスペローはわかったようだ。
「カタクリうまいか?ペロリン♪」
ペロスペローの質問にカタクリは勢い良く首を縦に振ったのでナナシは笑いながら自分の皿のドーナツを一つカタクリの皿の上に置いてやった。
「お姉ちゃんの一個あげるね」
カタクリはドーナツが増えた事に感動して目を輝かせながらまた震えている。
「い、いいの!?」
「いいよォ!」
「あー!カタクリずるいー!」
「皆にはおかわりもらってきてあげるから!」
おかわりという言葉にカタクリはピクリと反応する。
「お、おかわり、あるの?」
「うん!言えば作ってくれるよォ!カタクリのももらってきてあげるから、好きなだけ食べていいんだよー!」
「……しゅ、しゅごい!!!」
カタクリはドーナツを全て口の中へと押し込んだ。おかわりが出来るとわかって大切に食べる事をやめたようだ。
「もかあり!!!」
ドーナツを口いっぱいに入れたままカタクリがお皿を差し出してきたのでナナシは笑いながら受け取り、そしてポケットからハンカチを取り出すとコンポートに渡した。
「カタクリのお口の回り拭いてあげてくれる?」
「うん」
「ありがとう。それじゃあお姉ちゃんはドーナツもらってくるね!」
「あ!おれお手伝いするよ!ペロリン♪」
「本当ー?ありがとう」
「ねェね!!おれドーナツいちばんすきになった!!だからいっぱいたべる!!」
「フフ、わかった。すぐ戻るから良い子に待っててねェ」
「うん!!!」
カタクリが立ち上がり今までで一番大きな声で返事をしたのでナナシとペロスペローは笑った。
キッチンでナナシとペロスペローがドーナツが揚がるのを待っていると、コンポートが慌てた様子でキッチンへと入ってきた。
「おねえちゃん!おにいちゃん!」
「あら?コンポート?」
「どうした?ペロリン♪」
「カ、カタクリがダイフクとオーブンのドーナツもたべちゃって!すごいケンカしてるの!」
「あらら。良い子で待っててって言ったのに」
「お姉ちゃんとの約束破って悪い子だあいつ!!」
ペロスペローが凄く怒り出したのでナナシは笑いながらまだ小さいから仕方ないよとなだめていた。
「ほらケンカはやめて!ドーナツ持ってきたから!」
「ドーナツ!!!」
「カタクリはダメだぞ!!」
「え?な、なんで?」
「お姉ちゃんとの約束守らなかったからだ!」
「あ、う……ご、ごめんなさい」
「二人にちゃんとごめんなさいしろ!!」
「ダイフク、オーブンごめんなさい……」
「ドーナツもらったからもういいよ!」
「…………よし!じゃあカタクリもドーナツ食べていいぜ!ペロリン♪」
「!ありがとうにィに!」
「フフ。ペロスペローちゃんとお兄ちゃん出来て偉いねェ!」
「う、うん!エヘヘ」
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カタクリさんは二歳の時にドーナツを好きになったそうなので。