これは恋ではありません | ナノ
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 07:前途多難

「まさか兄貴にお菓子の作りを教えてくれと言われるなんてな……」

クラッカーはカタクリの屋敷に着くなりキッチンへと通された。そしてそこで待っていたのはエプロンを着けて仁王立ちしているカタクリだった。
材料はとても良い物が既に揃っていて、クラッカーは気合いが入っているなと思いながら眺めている。

「でもなんでおれ?」
「屋敷の者にはなんだか教わりにくい。そうなるとビスケットはもちろん、他のお菓子も美味しく作れるお前だろうと……」

カタクリにそう言われるとクラッカーは嬉しくて顔がにやけた。

「しっかたねェなァ!任せろ兄貴!」
「よろしく頼む」
「で、何を作りたい?おれの記憶が正しければ兄貴お菓子作りした事ないよな?とりあえず簡単な……」
「簡単な物じゃダメだ!おれはナナシさんに凄いと褒められるお菓子を作りたい!!」

突然大声で叫んだカタクリにクラッカーは少し驚きそしてあの兄がさん付けで呼ぶナナシという人物は何者なのかと気になった。

「ナナシ……さん?」
「そうか、お前にはまだ話した事がなかったな……ナナシさんはとてもカッコイイ素敵な女性でな」

カタクリは目を輝かせながらナナシの事を話し出した。
クラッカーはカタクリが兄弟やお菓子以外の話を楽しそうにするのを初めて見たのでますますナナシの事が気になった。

……気になったのだが、でも今日はこれからお菓子作りだ。だからカタクリがお茶を飲みながら話そうとか言ってキッチンを出ていこうとするものだからクラッカーは慌てて止めた。

「待て待て兄貴!」
「なんだ?」
「お菓子作るんだろう?」
「はっ!そうだった!」

カタクリはナナシの話をした瞬間にその事がすっかり頭から抜けてしまったようだ。再びよろしく頼むと頭を下げだ。

クラッカーは凄いと褒められるお菓子とはどんな物だろうかと一応考えてはみたが初心者に作れる物は限られているよなーと思い少し頭を抱えた。

「とりあえず時間はあるし、いくつか作ってみて上手く出来たのを渡すのはどうだ?」
「なるほど……いい考えだ」
「決まりな。じゃあ、まず小麦粉ー」

クラッカーに言われた通りカタクリは小麦粉を一袋持ち上げた。

前途多難なお菓子作りの始まりである。





カタクリはいきなり体が大きくなったわけではない。だから普段ならちゃんと力加減がわかっている。でも今日はナナシに凄いと褒められるお菓子を作ろうとかなりの気合いが入ってしまっているのだ。

そんなカタクリが細かい作業なんかスムーズに出来るはずがなかった。

まず最初の小麦粉の袋を開ける……これがもう無理だった。なんで?というくらい勢い良く開けるので、中身が全部宙にまってしまうのだ。
何袋か無駄にしてなんとか中身をこぼさずに開けられたのだが、何故か慎重にやらなくてはいけない分量をはかる作業まで勢い良くやってしまいまた小麦粉が宙にまった。
それでもクラッカーに慎重に!と何度も注意されて分量をはかる所までは出来たのだが……。

「ふんっ!!」

今度は卵が割れなかった。
卵を割るためにヒビをいれようとすると力が強すぎでそこでもうぐちゃあと潰れてしまう。
これは絶対に無理だと思ったクラッカーはおれが代わりに割ると言ったのだが、カタクリは全部自分でやるのだと絶対に聞かなかった。

でも何十個も卵が無駄になっていくとクラッカーは流石に黙って見ていられなかった。

「あ、兄貴もうやめてくれ!!」
「おれは諦めない!!」

そう言いながらカタクリはまた卵を一つ無駄にした。悔しそうにしながらまた新しい卵に手を伸ばしてきたので、クラッカーは慌てて卵を守るように立った。

「卵が!卵が可哀想だから!!」

クラッカーはちょっと泣いている。

「これはやむを得ない犠牲だ」

カタクリはクラッカーを押し退けまた卵を一つ掴んだのだが、クラッカーはその手を掴んで離さなかった。

「少しならおれだって何も言わないよ!でも流石に、流石にこれはもう……兄貴の無駄にした卵でいったいどれだけの美味しいお菓子が作れたと思ってるんだ!!」
「………」
「こ、こんなにいい卵なのに……グスッ」
「お、おい!?」

クラッカーは本格的に泣き出した。普段お菓子作りをする人間からしたら本当に許せない事のようだ。

「あ、兄貴のアホォォォ」
「な、泣くな!み、みっともないぞ!」
「う、うわああああん!兄貴が悪いのにィィ!」
「わ、わかった!おれが悪かったから!た、頼むから泣かないでくれ!」





しばらくしてクラッカーがなんとか泣き止んだのでカタクリはホッと胸を撫で下ろしていた。

泣きつかれたクラッカーは泣いている時にいつの間にか用意されていた紅茶に手を伸ばした。

「……兄貴は不器用だ。きっと一生卵は割れない」
「が、頑張れば……」
「割れない」
「……じゃあ、お菓子作りは諦めろという事か?」

しょんぼりとするカタクリの姿を見て、一度任せろと言ってしまったからかクラッカーは少しだけ罪悪感を感じていた。

「卵を使わないお菓子にすればいい」
「……何?」
「だからもう卵は諦めるんだ。卵を使わなくても作れる美味しいお菓子があるから」
「……どんなお菓子だ?」
「おれの一番得意なビスケットだよ!最高に美味しいビスケットの作り方教えてやるからな兄貴!」
「頼もしいな……お前は最高の弟だ!」
「フ、フフ!まあな!」

でもクラッカーは五分後頭を抱えながら自分の発言に激しく後悔するのだった。















「……兄貴型抜きだけやらないか?他はおれが全部やるよ」
「型抜きだけじゃ作ったとは言わない」
「……そんな事ないって」
「ダメだ……あ、くそっ!またなくなった!」
カタクリは力強く材料を混ぜるので、混ざりきる前に粉がどんどん飛んでいくのだ。
「……これならまだ3歳の妹の方が上手に出来てるよ」
クラッカーは小さな声で呟きながら溜め息をついた。










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クラッカーはカタクリが絡むと基本可哀想な事になってしまう不思議。
そして私はカタクリ不器用だと思っています。なんか細かい作業苦手そう。

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